課長に恋してます!
 揺れる車窓から賑やかな街灯に照らされた駅前のアーケード街、それから大通りの桜並木が見える。
 長野から本社に転勤になって四年間暮らした街の景色だった。

 見慣れた風景に胸が締め付けられる。

 地下鉄だけど地上を走る区間に暮らしていた街はあった。

 電車が速度を落としてゆっくりとホームに停まる。

 電車を降りて階段を上ると、かすかにコーヒーの香りがする。階段を上った所にあるコーヒーショップから漂ってくる匂いだ。コーヒーの匂いに混ざってミートソースの匂いもしてくる。

 そういえばコーヒー屋だけど、ミートソースが美味い店だった。香港に転勤になってまだ二ヶ月なのに、長野に帰った時よりも懐かしくて堪らない。

 少しだけセンチメンタルな気分に浸りながら、改札を出た所で立ち止まる。
 腕時計を見ると時刻は17時半を過ぎた所。一瀬君はまだ会社だろう。
 
 改札の前で待っていれば多分、会える。
 19時まで待って会えなかったら大人しく空港に行こう。

 そう決めて、改札を通る人たちに視線を向けた。

 そして一時間後――。

「……上村課長」

 改札を出て来た一瀬君にそう呼ばれた。
 一瀬君の顔を見た瞬間、抱きしめたくなった。
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