課長に恋してます!
 行きつけの新橋の居酒屋に一瀬と二人で来た。
 間宮も後で合流するらしい。
 
 カウンター席に並んで座って、ビールで乾杯した。
 そして、一瀬がすまなそうに婚約指輪が入ったケースを俺の前に置く。

「お前、いきなりだな」

 飲みに誘われたのは婚約指輪の件だと思っていたが、思った通りの事をされると落ち込む。

「間宮が来ない内の方がいいと思って」
「なるほど。気遣いの現れってやつか。確かに返却は受付けました」

 ケースを受け取ってすぐにカバンにしまった。
 給料の三か月分を注いだ婚約指輪だ。無くしたら洒落にならない。

「ごめんね」
「謝るなよ。無理だってわかってて渡したんだから、返ってくる事は最初からわかってたよ」

 強がりを口にして、焼き鳥を食べた。
 食べてれば余計な事を口にしないで済む。

 一瀬は聞きもしないのに、香港で別れた後の話を始めた。
 羽田で一晩課長を待って会えたそうだ。それで、課長に気持ちをぶつけて、課長にも好きだって言ってもらえたらしい。
 嬉しそうに話す一瀬に良かったなと思いつつも、失恋したばかりの胸は痛む。
 きっとこの胸の痛みも時間が経てば癒えると思うが、今は苦しい。
 だが、好きな女が幸せになるのは嬉しい。

「本当に石上ありかどう。課長と会えたのは石上のおかげだよ。私の無理を聞いてくれてありがとう」

 幸せそうな笑顔を浮かべる一瀬を見て、そんな嬉しそうな顔を向けられたのも初めてだと気づく。
 なんだか切ないな、俺。
< 218 / 251 >

この作品をシェア

pagetop