課長に恋してます!
次の日、早川から携帯に電話があった。
退院してて、体調の方は良くなったらしいが、酷く疲れた声をしていた。
「上村、迷惑かけてすまない」
思いつめた声が響いた。
「こっちは大丈夫だよ。早川こそ大丈夫か?」
「ああ、何とか。香川専務のおかげで会社に残れる事になった。カンボジアに行く事になったよ」
「カンボジアか……。ご家族も一緒か?」
「一人で行く」
「離婚したのか?」
「娘が成人するまでは離婚しない。そういう話になった。こんな父親でもいた方がいいらしい」
早川が力のない声で笑った。
「相手の女性は?」
「彼女は自分から退職したそうだ。新卒で入ったばかりなのに申し訳ない事をしたよ」
「何だって、心中なんて事をしたんだ?」
「……それほど追い詰められてたんだろうな。一緒になれないのなら、生きてても仕方ないって言われて、それで僕も一緒に逝くって言ってしまったんだ」
「バカ野郎」
早川の勝手なふるまいに腹が立った。
「一緒になれないら、手を出すな」
「その通りだ。自分の愚かさが身に染みたよ。もちろん最初はそんなつもりはなかったんだ。上司として彼女の事を心配してただけなんだ。新人の彼女にきつい仕事ばかりだったから、無理してないかと思ったんだ」
彼女は総合職で入って来て、男性社員並みの仕事をしてたそうだ。
取引先の無理な注文にも精一杯応えようとしてたらしい。
商社マンは常に買い手と売り手の間に挟まれる仕事でストレスも多い。
接待も多く、朝まで取引先に付き合わされる事も多い。
特に海外事業部は、アメリカやヨーロッパを相手にする事が多いので、向こうの時間に合わせて深夜に会議をしたり、海外出張の多い部署だ。
一番不規則で多忙な部署だと言った方がいいだろう。
そんな所で男性社員以上に働かされる若い女性を心配する早川の気持ちも理解できた。
しかし――。
「早川、いくら好意を向けられても応えてはいけなかったんじゃないのか?結婚してて、家庭のある身で。彼女の気持ちに応えるなら家庭を捨てる覚悟がなきゃダメだ」
「容赦ないな。上村は」
「僕に慰めの言葉なんて求めてないだろ」
「ああ、叱って欲しくて電話した。ありがとう」
電話はそこで切れた。
もしもゆり子が生きていたら、早川と同じような状況に足を踏み込んでいたのだろうかと、少し思う。
いや、それはない。
ゆり子がいたら一瀬君の気持ちには応えない。
惹かれる事もない。
一瀬君を好きなのはもうゆり子との事が終わってるからだ。
終わってる。
そうか、ゆり子との結婚はもう終わっているんだ。
ふと、習慣で付けたままの結婚指輪が目に入った。
もう外さないとな。
退院してて、体調の方は良くなったらしいが、酷く疲れた声をしていた。
「上村、迷惑かけてすまない」
思いつめた声が響いた。
「こっちは大丈夫だよ。早川こそ大丈夫か?」
「ああ、何とか。香川専務のおかげで会社に残れる事になった。カンボジアに行く事になったよ」
「カンボジアか……。ご家族も一緒か?」
「一人で行く」
「離婚したのか?」
「娘が成人するまでは離婚しない。そういう話になった。こんな父親でもいた方がいいらしい」
早川が力のない声で笑った。
「相手の女性は?」
「彼女は自分から退職したそうだ。新卒で入ったばかりなのに申し訳ない事をしたよ」
「何だって、心中なんて事をしたんだ?」
「……それほど追い詰められてたんだろうな。一緒になれないのなら、生きてても仕方ないって言われて、それで僕も一緒に逝くって言ってしまったんだ」
「バカ野郎」
早川の勝手なふるまいに腹が立った。
「一緒になれないら、手を出すな」
「その通りだ。自分の愚かさが身に染みたよ。もちろん最初はそんなつもりはなかったんだ。上司として彼女の事を心配してただけなんだ。新人の彼女にきつい仕事ばかりだったから、無理してないかと思ったんだ」
彼女は総合職で入って来て、男性社員並みの仕事をしてたそうだ。
取引先の無理な注文にも精一杯応えようとしてたらしい。
商社マンは常に買い手と売り手の間に挟まれる仕事でストレスも多い。
接待も多く、朝まで取引先に付き合わされる事も多い。
特に海外事業部は、アメリカやヨーロッパを相手にする事が多いので、向こうの時間に合わせて深夜に会議をしたり、海外出張の多い部署だ。
一番不規則で多忙な部署だと言った方がいいだろう。
そんな所で男性社員以上に働かされる若い女性を心配する早川の気持ちも理解できた。
しかし――。
「早川、いくら好意を向けられても応えてはいけなかったんじゃないのか?結婚してて、家庭のある身で。彼女の気持ちに応えるなら家庭を捨てる覚悟がなきゃダメだ」
「容赦ないな。上村は」
「僕に慰めの言葉なんて求めてないだろ」
「ああ、叱って欲しくて電話した。ありがとう」
電話はそこで切れた。
もしもゆり子が生きていたら、早川と同じような状況に足を踏み込んでいたのだろうかと、少し思う。
いや、それはない。
ゆり子がいたら一瀬君の気持ちには応えない。
惹かれる事もない。
一瀬君を好きなのはもうゆり子との事が終わってるからだ。
終わってる。
そうか、ゆり子との結婚はもう終わっているんだ。
ふと、習慣で付けたままの結婚指輪が目に入った。
もう外さないとな。