課長に恋してます!

32 三度目の……【美月】

 『香港は寂しいんだよ』

 課長の言葉が頭から離れなかった。
 初めて課長の弱音を聞いた。
 支えになりたい、そう思った。

 久々にスッキリした気分で目覚めて、会社に行く仕度をして、家を出た所で、また課長が電話をくれた。
 朝から課長の声を聞けたのは嬉しかったけど、昨夜の電話と全く様子が違った。
 感情の読めない声で、昨夜の電話の事を覚えてないって言われてショックだった。

 課長が香港は寂しいんだよって言った後に、勇気を出して、温泉に誘ったのに。課長はあんなに優しい声で『わかった。温泉に行こう』って言ってくれたのに。部屋だって一つでいいって、言ったのに。甘い言葉も山盛りで言ってくれたのに。

 その全てを覚えていないなんてショックだった……。

 気づいたら電話を切っていた。

 だけど会社に着くころには冷静になって、落ち込んだ。
 せっかく課長から電話をもらったのに、態度が悪かった。

 覚えてなくたっていいじゃない。
 それでも電話をかけてくれた事は嬉しかったし、酔ってても、甘い言葉は聞けたし……。

 何やってんだろう、私。

 冷静に考えてみれば、温泉旅行なんて先走り過ぎだ。
 まだハッキリと思いを受け入れてもらえたかもわからないのに。

「朝から辛気臭い顔するなよ」

 落ち込んでいたらオフィスに入って来た石上と目が合った。
 温泉でイチャイチャなんていう石上の言葉を真に受けて、浮かれていた自分がいけなかったと反省する。

「はあ」とため息をつくと、「なんだよ」と石上が心配そうに見てくる。
 石上に心配されるほど、顔に出ているんだと思った。

「別になんでもないよ」

 無理やり笑顔を作って気持ちを切り替えた。
 だけど仕事が終わると課長のことばかり考えてしまう。

 『寂しい』と私に零した課長の言葉が頭から離れなかった。
 覚えていないと言っていたけど、あれは課長の本音だったんじゃないだろうか。
 私にできる事はないだろうか。

 そう思った時、課長が来れないなら、こっちから会いに行こうと思った。
 幸い今は仕事はそんなに忙しくないし、有休もまだ残っている。
 だから、石上に文句を言われないぐらいしっかりと仕事をこなし、来週の月・火と休みを取った。
 課長が日曜日の午後に香港に帰ってくると聞いたからそれに合わせた。

 という訳で、三度目の香港だ。
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