課長に恋してます!
 シャワーを浴びてTシャツジーンズ姿でリビングに戻ると、もう料理は完成していた。
 手伝う隙もなかったことに恐縮しつつテーブルを見ると、並べられていたのは、パラパラのチャーハンと湯気を立てる卵スープ。
 朝食というか、もう昼食の時間だった。

「そこに座って」
「……はい」

 ソファに腰かけると、課長が当然のように私のすぐ隣に座る。
 心なしか、昨日よりも近い。これが結ばれた後の距離感なんだろうか。
 課長も今日は見慣れたスーツではなく、ラフなTシャツ姿で、それもなんだか緊張する。

「今日は代休なんだ。言ってなかったっけ?」
「……代休なんですか。聞いてませんでした」

 あははと笑うと「食べようか」と課長に促された。

「い、いただきます」

 手を合わせてから食べ始めるが、恥ずかしくて課長の顔が見られない。
 そんな私とは違い、課長はいつも通り落ち着いた様子で、「味はどう?」と聞いてきた。
 だけど、その瞬間、『美月』と熱っぽい声で私を呼びながら、身体を繋げた課長を思い出し、カアッと顔中が熱くなる。

「顔が真っ赤だけど、熱でも?」

 私の変化に気づいた課長が私の額に触れようとしたので、咄嗟にその手を避けた。
 今、課長に触れられて平気でいられる自信はない。

「……だ、大丈夫です。あの、チャーハンも美味しいです」

 手元のお皿に視線を向けたまま、なんとか質問に答えた。

「良かった。夕飯は外に食べに行こうか。そうだ。いいお店があるんだよ。日本料理の店で、香港で食べた中で一番、美味しい日本そばを出してくれる店なんだ」

 課長の弾んだ声が聞こえてくるが、全く顔を見られなかった。

「香港で日本そばですか」
「あ、ごめん。せっかく香港に来たんだから広東料理とかの方がいいよね?」
「いえ、お蕎麦の方がいいです。課長が美味しいっていうお蕎麦食べてみたいし」
「……良かった」

 そう言った課長の声が先ほどとは違い、少し沈んだように聞こえた。
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