課長に恋してます!

13 飛行機、何時?【美月】

  キャリーバッグを引きずりながら、エレベーターに向かった。
 
 何だかんだで金曜日から泊まってしまった。図々しかったかなと、反省する。
いきなり押し掛けてしまったし……。

 でも、看病ができて良かった。熱が下がったし、ご飯も食べてくれたし、少しは役に立てたかな。
 いろんな想いがぐるぐると胸の内で回った。

 香港に来て良かった。
 課長に会えて良かった。
 これ以上を望んだらバチが当たる。

 課長の部屋も見れたし。
 必要最低限の家具しかなかったけど、本棚にはぎっしり本が詰まっていた。
推理小説があったり、時代小説があったり、ビジネス書があった。それから料理の本も。
 読書家の課長のイメージ通りだった。

 ジャズのCDもあった。
 課長が好きだって言ってたビル・エヴァンスの CDもあった。同じものを私も持ってる。課長と同じものを持っている事が胸をくすぐられる。
まあ、課長から聞いて買ったんだけど。

 あとは寝室に家族写真もあった。
 若い頃の課長と赤ちゃんを抱っこした奥さんと、小さな娘さんが写ってた。

 奥さんはすごく優しそうで美人だった。
 課長は今でも奥さんが好きなんだろうな。

 夜中に何度か、氷枕を替えた。
 苦しそうに唸っていた課長の手を握ると「ゆり子」って呼ばれた。
 
 奥さんの名前なんだろうか。
 亡くなって20年以上経つのに、課長はずっと奥さんを思ってるんだ。

 そんな風に亡くなった人を想えるのは素敵だけど、奥さんがうらやましい。
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