秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「・・とり、服部。ねぇ、直生(なお)!」


社長に『直生』と名前を呼ばれてハッとした。


「あ・・」

「『あ・・』じゃないわよ。ぼんやりしてどうしたの?」

「申し訳ありません・・。前社長のことを、思い出していました」


素直に釈明した。
社長は、ふぅ、と小さなため息をつく。


「思い出すよね・・。服部だって、かなり長い時間を父と過ごしたんだものね」

「はい。専属秘書になってからだけでも、6年ほどになります」

「・・申し訳ないと思ってる」

「えっ」


社長?
申し訳ないって、どういう意味だ?


「それは・・どういった意味合いで・・」

「だって・・服部を・・」


俺・・を?
社長が目を伏せながら続けた。


「父は、服部に全幅の信頼を置いていた。だからその分、自由な時間なんてほとんど無かったと思う。
そのせいで、恋愛が上手くいかなかったり、結婚に至らなかったとしたら、服部の幸せを邪魔したことになるんだな・・って」

「社長、そんなことは・・」


そんなことはありません、と言おうとした俺の言葉を社長が遮った。


「それなのに、それが分かっていながら、こうして今もそばにいてもらっている・・。
父よりも、私の方が罪は重いわね」


そう言った社長は、とても寂しそうな表情をした。
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