秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
桜に聞かれて困ることもないが、なんとなくフロアの外に出てから電話を取った。

「はい、山脇の秘書の服部ですが」

「・・藤澤だ」

「何か・・山脇にご用件でも?」

「いや、特には。そういえば、風の噂で聞いたよ。山脇、どこかの専務と結婚したんだって?」

「ええ、ご存じでしたか」

「お前も・・振られたか」

「えっ」

「もしかして俺が強引に別れさせたから、その専務に取られたんじゃないかと思って」

「いえ、そんなことは」

もしかして、謝罪の電話だろうか。
それとも、何か桜に取り次いでほしいことでもあるのだろうか。

「今度、振られた者同士で飲まないか?」

「・・そうですね」

「じゃあ、そのうちに。・・・・悪かった」

そう言うと、藤澤は電話を切った。

振られた者同士・・か。まいったな。
俺が『どこかの専務』だと知ったら、藤澤はどんな反応をするんだろうか。
さすがに・・怒るかな。

整髪料の付いていない髪をかき上げ、ふぅっとため息をついた。
廊下のガラス窓に映った自分を見る。

サラリとクシを通しただけの髪。
メガネの無いコンタクトレンズの顔。
光沢を抑えたスーツスタイル・・もちろんベストは無し。
白いシャツにダークな色のネクタイ。

元は同じ『俺』なんだけどな。
これじゃ俺が『専務』だとは誰も気づかないか。

今日初めて『秘書』の俺と会う西川の反応が楽しみだった。

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