秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「行ってらっしゃいませ。会社に戻って待機していますので」


コクリと頷いて、社長は暖簾の奥に消えて行った。


これから2時間ほど。
不安しか・・ない。

前社長について会食の席に同席させてもらったことはあるけれど、秘書がいる席とそうでない席では、話す内容も変わるはずだ。


「桜さん・・」


思わず名前を口にしながら、ひとまず会社に戻った。


1時間半ほど過ぎたあたりで、社長からメッセージが入った。

『大手町最寄のホテル、バーラウンジ』


バーラウンジ・・?

会食だけじゃ終わらないのか。

ホテルの駐車場で待つか?
でも、社長は会社で待機しろと・・。


「くそっ・・」


俺は苛立ち紛れに、握った両手でハンドルを叩く。

どうしたらいいんだ。
いまの俺に、何ができる?

できることは、たかが知れている。


酔って具合が悪くなることを想定し、それに対処できそうな物をいくつか買い込んだ。

酔いに効くという漢方も手に入れたし、クーラーバッグに氷とミネラルウォーターも用意した。


『バーラウンジ』のメッセージが入ってから約1時間後、助手席に置いたスマートフォンが鳴った。

表示されているのは、『山脇 社長』の文字。


「社長! 大丈夫ですか」


思わず大声を出してしまった俺の耳に届いたのは、苦しそうな社長の声だった。
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