秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
その後、月に2度ほど、桜さんは会食に出掛けるようになった。

決して楽しそうじゃないのに、どうして出掛けるのかと尋ねたことがある。


「そんなの、誰にもこの会社を渡さないためよ。みんなが守ってくれる、この会社を」


けれど。

意志の強い桜さんでも、時々苦しそうな表情をすることがあって、俺は気がかりだった。

何がそんなに、桜さんを苦しめているのかと。


「不安なの。自分の判断が正しいかどうか、無性に不安になることがあってね。
でも、自分を信じるしか無いわ」

「桜さん、俺に何かできることありますか?」


そう尋ねると、桜さんはいつも同じように答える。


「そばにいてくれるだけでいい」


そう言って、やわらかく微笑むだけだ。


もっと望んでくれればいいのに・・。
俺は、歯痒い思いを抱えていた。


ある夜、いつものようにホテルのバーラウンジに桜さんを迎えに行った帰り道。


「ねぇ服部」

「はい」

「・・キスして」


俺は狼狽えた。


望んでくれればいいと思うものの、実際に求められた俺は、桜さんの真意を図り兼ねただけで、キスするなんてできなかった。

俺はただ、小さな寝息を立てる桜さんの頬を、気づかれないようにそっと撫でるだけで、精一杯だった。
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