秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「服部、さっきは助かったー」


社長室に戻ってくるなり、桜さんはため息をついて言った。


「藤澤、仕事が早いんだけど手も早いのよ。海外暮らしが長かったらしくて、本人に言わせれば、スキンシップなんだろうけど」

「・・でも」

「でも?」

「桜さん、嫌がってませんでした・・」


しまった。
思わず本音が溢れた。


「『桜さん、嫌がってませんでした』・・か」


桜さんに揚げ足を取られた。


「・・申し訳ありません。ご自宅じゃないのに、名前で呼んでしまって」


俺はいたたまれなくなり、社長室を出ようとドアのレバーに手を掛けた。


「誰かに・・」


背中から、桜さんの声が追いかけてきて立ち止まる。


「本当はこんなこと言っちゃいけないんだろうけど」

「はい」

「誰かに触れられると、心のどこかでホッとする自分がいて」

「・・ひとりは、辛いですか?」


そう尋ねると、桜さんはコクリと頷いた。

だったら。


「だったら・・俺でもいいですか?」


振り返らずに問いかけた。

沈黙が続き、早くなった鼓動だけが俺の耳に響く。


やっぱり、俺じゃダメか・・。


「余計なこと言いました。申し訳・・」

「今夜、うちに来て」


え?


「え、でも、今夜は先約があると・・」


いや、そうじゃない。
そういうことじゃない。


『うちに来て』


それは・・つまり・・いや、そんなはずは・・。


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