秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「・・どういうことだろう」


営業部門から上がってきた報告と、業界の動向を見比べながら、珍しく桜が難しい表情を見せた。


「社長? 何かありましたか?」


問いかけた俺の声は、耳には届いていないようだ。


「まずい・・。服部、銀行にアポ取って」

「え? はい、すぐに」


銀行に向かう途中で、何が起こっているのかを聞いた。

どうやら、取引先のひとつが、桜が提携を断った企業に買収されたと言うのだ。

今後も取引先を失うような状況が続けば、山脇物産は経営状態が悪化すると見られてしまう・・。

そうなると銀行からの融資が受けられなくなるため、その前に、銀行側にきちんと状況を説明しておこうというのだ。


「山脇社長、社長自らお越しとは恐れ入ります」

「いえ、こちらこそ急なお約束で申し訳ありません」


桜の説明は理路整然としていて、何の疑問も無かった。

銀行の担当者も『今後ともよろしく』と、特に訝しがる様子も見えなかったのが幸いだ。


「社長、このまま社に戻りますか?」


銀行を出たところで、俺は桜に訪ねた。


「ごめん、ちょっと寄りたいところがあるから、先に帰ってもらえる?」

「え? どちらへ?」

「うん・・昔の知り合いのところに・・」


昔の知り合い?
聞いたことが無いな・・誰だろう。


詮索したいのは山々だったけれど、これ以上踏み込むのもどうかと思い、俺は桜の乗ったタクシーを見送った。
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