秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
社長夫人・・つまり桜さんの母親は、桜さんが大学生の時に病気で亡くなった。

そして今回、社長が・・。


「服部、顧問弁護士を呼んでくれる?」


旅立った社長の横で、泣きわめくわけでもなく、桜さんは静かにそう言った。

ほんの少し前まで、俺を『服部さん』と呼んでいた桜さんは、もう、覚悟を決めたようだった。


「承知しました。ご自宅へお呼びして構わないでしょうか?」

「そうね・・父を連れて帰るし、今夜は自宅に来ていただけるよう、お伝えして」

「はい」


俺は会社関係の手続きを進め、桜さんは社長個人の手続きに追われた。


喪主も立派に努め、告別式やその後の関係者との挨拶も全て終えたタイミングで、俺は桜さんを自宅に送り届けた。


「桜さん、着きました」

「うん・・」


後部座席から遠くを眺めていた桜さんは、車を降りる気配がない。

もしかして・・。
降りる気力がないんだろうか。

俺ですら、少しだけ緊張の糸が緩んだような気がしている今、桜さんは・・。

俺は運転席を出て、後部ドアを開けた。


「桜さん」

「な・・に?」

「失礼します」


『きゃっ』という小さい悲鳴を上げた桜さんは、真っ赤な顔で俺に抱え上げられた。
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