秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「服部下ろして。重いから・・それに恥ずかしい。ひとりで歩ける」

「桜さん・・社長が亡くなってから、ほとんど食事されてませんよね? こんなに軽いとは思いませんでした」


桜さんは、俺に抱きかかえられたまま視線を逸らす。

俺は、リビングのソファに桜さんを下ろして靴を脱がせた。


「・・ひとりだと、食べようという気にならなくて」

「じゃあ、しばらく私と食べましょう。朝と夜は、私がこちらに伺います。昼は仕事の合間に」


だったら、と桜さんは俺の腕をつかんだ。


「服部、ここに・・」


そう言って言葉を切った。

その後に、どんな言葉を続けようとしたのかは分からない。


でもきっと、俺じゃなくても。
誰かにここにいて欲しかったんだと思った。

これからひとりで、いろんなものを抱えていく・・・・誰かにいて欲しいと思うのは、おかしなことじゃない。


ふと見ると、桜さんは静かに涙をこぼしていた。

社長が亡くなってから、初めて見る涙だった。


「桜さん・・」


俺はそっと、桜さんを自分の腕の中に閉じ込めた。

深い意味は無かった。
ただ、そうしてあげたかった。

桜さんは嫌がるわけでもなく、かといって寄りかかるわけでもなく、しばらくの間、俺の腕の中で泣いていた。
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