失われた断片・グラスとリチャード
頭だけではない、
両手の拳で壁を叩きつける。

「ぎゃぁぁぁぁぁーーーー」
動物の、断末魔のような叫び。

「どうしたんだ!!!
何があった!!!」

顔色を変えたリチャードが、杖をついて、
よろめくように、居間に入って来た。

「ああ、いきなり、叫んで・・・」
ハロルドが呆然と、
額と手を、壁にうちつけている
グレイスを見ていた。

リチャードが、杖を投げ出して、
後ろからグレイスを、抱きしめて止めようとした。

それでも
上半身を、振り子のように大きく動かして、グレイスが暴れる。

「わぁぁぁぁぁーーーー」

この世が、壊滅するような叫び声だった。

「ハロルドッ!!出ていけ!」

リチャードが、グレイスを後ろ抱きするように、抑え込んで叫んだ。

ハロルドは、この光景に恐れをなしてか、すぐに出て行った。

「グレイス!落ち着けっ!!
もう、あいつはいない!!」

リチャードは、
何とか体を反転させて、グレイスを壁から、引きはがした。
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