失われた断片・グラスとリチャード
「ふーーーん、
それなら、それで話が早いな。
どう?君、僕の所に来ないか?」

ハロルドは、そう言いながら、
後ろ手に扉を閉めた。

「君は、リチャードのもう一つの仕事を知っているよな。
君もその内に、
店に出るように、なるのではないか?」

グレイスは何も言わず、
後ずさりして、壁に体を寄せた。

「そうなる前に、僕と専属契約を、結んだ方がいいぜ。」

ハロルドは、一歩前に出ると、
グレイスのあごに、軽く指をかけた。

「君なら、相当に高い値段がつくだろう?
リチャードが、隠しておくのもわかるが」

次に、ハロルドは片手で、
グレイスの腰を引き寄せた。

「君みたいなタイプは・・
ちょっとあの店には、いないしな。いい感じだ」

グレイスの瞳が・・凍りついた。

次の瞬間

「ぎゃぁあああああーーー」

ドスン ドスン ドスン

グレイスが、大声で叫びながら、
自分の額(ひたい)を、壁に打ち付け始めた。

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