失われた断片・グラスとリチャード
リチャードの腕の中で、
グレイスはもがいて、暴れていたが、
その体の動かす勢いで、リチャードは、背中を壁にこすりながら、
ずるずると、床に座り込む姿勢になった。

「グレイス、誰も何も、しない!!」

リチャードに、後ろから抱きしめられたまま、
グレイスも、床にすわりこむ恰好になった。

それでも、半狂乱のグレイスは、
リチャードの手から、逃げようとして、その手の甲に、噛みついた。

「つっ・・・」

リチャードは、いきなりの痛みに、息を呑んだが、その腕は固く緩まなかった。

「ううううう・・・」
グレイスは、
動物のようなうめき声をあげた。

リチャードは、大きく息を吸って、吐くように言った。

「グレイス、聞きなさい。私の話を・・」

「私は・・人殺しと言われた」

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