俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 リップクリームや日焼け止め、アイブロウ、汗拭きシートといった、学生時代からなんの進歩もないメイクポーチの中に、今日はあの口紅が入っている。

 私はリュックからポーチを出すと、華やかな色のスティックを取り出した。

「変じゃない……よね?」

 鏡を見ながら、おそるおそる唇に色をのせた。

 先日深澄さんに言われてから初めて気が付いたけれど、私は母に似てわりと眉や睫毛がしっかり濃いめ。

 だから、唇のメイクだけでも浮くことはなく、一段華やかな顔になる。

『ほら、美人だろ』

 ふと、脳裏に深澄さんの言葉が蘇る。途端に胸がドキッとして、唇に触れたキスの感触まで思い出してしまった。

 やわらかくて、温かくて、ほんのり濡れた彼の唇……それが重なるたびに深澄さんの香りに包まれて、胸がギュッとした。

「……な、なにを思い返しているの! 私」

 誰もいないのにひとりで気恥ずかしくなり、ロッカーの扉をばたんと閉める。

 それでも唇に染みついた深澄さんの気配はなかなか振り払えず、暴れる心臓をなだめながら、私はスマホで空港内のカフェの場所を調べ始めた。

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