京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
「ここには俺が許したモノしか入れない」

(それってどういう――)

 疑問を最後まで考えるより早く、千里の顔が見る見る近づいてきた。

 あと数ミリで唇が触れ合う――というそのとき。
 
「ごめんくださいましー」

 どこからともなく聞こえてきた鈴を転がすような声に、千里の動きがピタリと止まった。

「化け猫屋、というのはここですの?」
「化け猫屋じゃない。まねき亭だ」

 璃世から体を少し離した千里は、すぐ横の戸口に向かって答える。

「あら、お名前なんてなんでもよくてよ? それよりも早く中に入れてくださる? アタクシ、お客様でしてよ」

 背中を壁につけている璃世には、真横にある戸口の様子は見えない。声の感じからいって璃世と同年代の女性だろう。
 千里は、初対面の――しかも平々凡々の容姿である璃世に突然迫ってくるくらいなのだ。そんなに女好きなら、間違いなくそちらのかわいらしい(声の)女性客の方になびくに決まっている。

(そうだ。この隙に逃げるのよ)

 そう思った璃世は、千里に気付かれないようそうっと体を横にずらし、じりじりと千里から距離をとった――のだけれど。

「取り込み中なんだ。またにしてくれ」
「えぇっ!」
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