京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
「ウ……ウサギィ⁉」

 白い物体の正体はウサギ。

「な、なんでこんなところにウサギが……」

 まじまじと見つめたら、ウサギがこちらを向いた。赤い瞳をクリっと動かして鼻をヒクヒクさせる様子が実にあいくるしい。

(も、もふもふだぁ……かっわいい~~!)

 なにを隠そう、もふもふな生き物に目がない璃世。手が勝手にウサギに延びる。あと少しで、その柔らかそうな毛並みに触れられると思ったのに。

「やってくれたな」

 憤怒の形相の千里がウサギの首もとをひっつかんだ。その途端。

「おはなしなさいっ! レディになんてことなさるのっ!」

(え……)

 璃世は自分の耳を疑った。今、ウサギがしゃべったように見えたのだ。

(ま、まさかね……)

 そんなことがあるわけないと、あたりを見まわす。どこかにさっきの女性が隠れているにちがいない。

「レディが聞いて呆れるな! どこの世界に跳びげりをするレディがいるってんだ⁉」
「あら? ウサギが跳んでどこが悪いの?」

 ごもっとも。――などと、うっかりうなずきかけた璃世であるが、そんな場合ではない。
 やはりしゃべっているのはこの白ウサギ。しかも千里はそれが当たり前のように会話をしていて、自分の方がおかしいのかと頭を抱えたくなる。

 すると白ウサギは千里をキッと睨み上げた。

「女といちゃつくために客を追い返すとは、言語道断ですわ! この万年発情ネコ!」
「おまっ! 言ったな……」

 千里の体から白い煙のようなものがゆらゆらと立ち始める。
 その様子を凝視していた璃世は、次の瞬間両目をこぼれんばかりに見開いた。
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