ひと夏のキセキ
「…遥輝くんとの仲を引き裂いちゃったのって、お母さんだよね」


……。


今さら何を。


もう、遥輝の話は懲り懲りなのに。


「絢の友達が電話越しに遥輝くんに怒鳴ってた日があったでしょ?実はあのとき私…全部聞いてたの。扉越しにあの子の言葉聞いて、自分のしたことを反省した」


…葵の言葉、聞いてたんだ。


私が言いたくても言えなかったことを葵が代弁してくれた。


あの真っ直ぐな思い、お母さんにも届いてたんだね。


「絢を守りたい一心で、遥輝くんとの関わりを絶とうとしちゃった。遥輝くんを遠ざければ、元の落ち着いた生活に戻れると思ったから」


「…元の落ち着いた生活って?」


退屈な生活の間違いでしょ。


やりたいことが何もできず、病室に閉じ込められるだけの日々。


友達と話す楽しさも、恋ができる幸せも、何もなかった。


それを落ち着いた生活だなんて言ってほしくない。
< 271 / 353 >

この作品をシェア

pagetop