ひと夏のキセキ
すれ違ってばかり。


元凶は俺か…。


“好きになりたくなかった”


病気であるということと葛藤しながら付き合ってくれていた絢に、絶対言ってはいけない言葉だった。


あの時は、どうしても絢を失うのが怖くて、母さんや茜のときに経験したあの喪失感をまた味わうのが怖くて、つい突き放すようなことを言ってしまった。


もう絢のことは忘れたいと思ってしまっていた。


あの時、そんなことを言わなければ、思わなければ。


今でも隣に絢がいたかもしれない。


「遥輝はさ…もう絢のこと諦めた?」


「んなわけねーじゃん」


俺はずっとあいつが好きだ。


華奢で可愛らしい小動物みたいな奴のくせに、頑固で不器用な絢のことが好き。


小さなことでも笑ってくれて、明るく毎日を懸命に生きている絢が好き。


あいつを手放す気なんて1ミリもない。
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