ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
 エリオットから普通の夫婦像を学んだ俺は、夜まで執務室に篭って考えた。

 もし俺とコレットが普通の夫婦なら。
 妊娠の兆候に気付いたコレットが侍医を呼ぶ。そしてその後で俺を呼び出して、恥ずかしそうに顔を赤らめて俺に言うんだ。


『レオ様、私妊娠したみたいです!』


 こういう流れだ。理想だろ。


 しかし、俺たち夫婦は普通じゃない。
 コレットは、ウェディングドレスを着て頭にロウソクを立て、人を呪う姿を見せびらかす妻だぞ。どう考えても普通じゃない。
 コレットの妊娠の兆候に気付くべきはコレット本人だ。それなのに……


 俺が先に気付いてしまった。


 先日から体調を崩してしばらく寝込んでいたコレット。復活したと思ったら、いつも眠い眠いと言って昼寝している。肉や魚のにおいに吐きそうになると言って、最近はイモばかり食う。
 それに、明らかに、おなかがぽっこりと出てきた。

 そんな状況で、コレットは普通に夕食時に出された食前酒に口を付けようとするし、このクソ暑い中で乗馬の練習をするとか言う。
 吐き気がすると言って普通に薬を飲もうとしたから、俺が必死で止めた。
 何で気付かないんだよ! ちょっとは疑えよ!

 それとなく医者に診せようと体調を尋ねても、元気だから大丈夫としか言わない。
 無理矢理に侍医を呼んでも、ポーラに会うのがなぜかいまだに抵抗があるらしく、するりと逃げ回って終わりだ。
 挙げ句の果てに、『最近太った気がするから腹筋鍛えなきゃ』なんて、メイにもらしているらしい。

 普通の夫婦なら、妻の方が気付いて自ら医者を呼ぶんじゃないのか? 俺は一体どうすればいいんだ。

 執務室で頭を抱え、髪の毛もぐしゃぐしゃになった頃、俺は決意を固めた。


 今晩、俺は事実を確かめる。
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