ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
 こうなったら最後の手段。コレットの侍女、メイに頼むしかない。
 コレットが孤児院の慰問のために外出している今がチャンスだ。コレットの部屋を掃除しているはずのメイをつかまえよう。


「メイ! いるか?」


 コレットの部屋に入るが、もう既に掃除は終わっているようだ。部屋は綺麗に片付いているし、人の気配もしない。メイは使用人室に下がったのだろうかと思い、扉を締めようとした俺の耳に、うなるような声が聞こえてきた。


「誰かいるのか?」


 ベッドの方から聞こえる声。もしかして、コレットが倒れていたりしないか? 俺は焦ってベッドに駆け寄った。


「おい! 大丈夫か!」


 そこにいたのは……小さくいびきをかきながら昼寝をする、メイだった。


「……何? もう帰って来たの? あれ、コレットかと思ったらレオじゃん。どうしたの?」


 おい、目をゴシゴシしてゆっくり起き上がるんじゃねえ。ご主人のベッドで勝手に何してるんだよ。

 いつもコレットのベッドで勝手に昼寝していると言う図々しいメイに、俺の悩みを打ち明けた。
 コイツは信用ならないヤツだが、何故だかコレットが絶大な信頼を寄せている相手なので仕方がない。


「コレットが妊娠してるんじゃないかって?」
「いつもコレットの近くにいるお前なら分かるだろう。何かそういう兆候とか」


 メイは眉をグッと歪めながら天井を眺めてしばらく考える。数秒の沈黙のあと、開き直ったようにこう言った。


「あの子なんでも自分でやっちゃうから、私特に世話らしい世話もしてないのよね。つまり、妊娠の兆候があるかないかなんて、ぜんっぜん分かんない!」
「自慢気に言うな!」


 コイツ、昼寝はするしコレットの世話はしないし、ほとんど働いてないじゃないか。ジョージに密告してやる。


「って言うかさ、レオが直接コレットに聞けばいいじゃん。もしかして妊娠してる? って。それで解決じゃないの?」
「おい、俺がそんなこと聞ける訳がないだろ」


 コレットは王太子妃だぞ。ただでさえ周りから、早く男子を産めという暗黙のプレッシャーがかかる立場だ。それなのに当の俺から妊娠したかどうか確認するなんて、どれだけコレットを追い詰めることになるか。
 結婚からまだ一年も経っていないとは言え、コレットだってプレッシャーを感じているに違いないんだ。


「なるほどね。じゃあ、私がそれとなく探るしかないわね」
「頼む。あと、俺が見ていないところでコレットが危険なことをしないか、ちゃんと見ててくれよ。昼寝してる場合じゃないぞ」


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