ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
 声を発したその人は、ピンク色の髪を後ろでまとめた小柄な女性。高くて可愛らしい声、風になびくエプロンスカート。あれ? 心なしか金粉(キラキラパウダー)が舞っているように見えます。あれは彼女の? それとも殿下の?


「大丈夫ですよ、お嬢さん。それよりも、この街に初めて来たので少し迷ってしまって。良ければ案内をお願いできませんでしょうか?」


 うわっ! 手っ取り早く街に繰り出そうとしている! 殿下、効率を追い求めすぎです。もう少しシナリオの力を信じて!


「ええ、私でよろしければご案内しますが、まずはゴミをなんとかしないと……」
「それならお任せください、私が片付けておきますよ。貴女は今からすぐに着替えて、渡風亭の正面入り口に来てください。そこで待合せをしましょう」
「いいんですか……? 分かりました、それではすぐに着替えて正面玄関に行きますね」


 ピンクの女の人は本当にゴミをそのままにして中に入ってしまいました。さっきも言ったけど、さすがに殿下にゴミはダメですよ! 一体どうする気……あれ? 殿下が何か言っている。口の動きから読み取りますね。えっと、


『お・ま・え・が・か・た・づ・け・ろ』


まあ、そうなりますよね。

 殿下はそのまま正面玄関の方に行ってしまいました。

 ああ、ヒドイ。社畜扱いにもほどがあります。
 それにしても、一発目でヒロインに会えるなんて、私たちは何とラッキーなのでしょうか。ゴミを片付けながらなので何とも言えませんが、これは幸先(さいさき)が良いです。ピンクの髪なんてヒロインにしかあり得ない色ですし、ヒロイン=彼女で間違いないと思います。

 急いでゴミを片付けてゴミ置き場に運び、通りかかった収集担当のお兄さんに渡しました。さあ、私も正面玄関に向かいます。

 正面玄関をのぞくと、殿下が待合室の椅子に座って新聞を読んで待っています。周りの人たちがチラチラと見ていますね。あの容姿は目立ちますから仕方ないです。そして殿下も、周りの人に会釈とウィンクするのやめてください! 鼻血出している方いますよ。


「お待たせしました!」


 階段の上から、ピンクの髪の人が降りてきます。屋内なのになぜか風がふんわりと吹いている感じです。白いワンピースのスカートと髪がふわふわと揺れて、階段を降りてくる彼女はまるでスローモーションの映画を見ているよう。か、可愛い……! さすがヒロインです。

 殿下は……、あれ? ちょっと顔が赤くなってませんか? もしや殿下もヒロインに見とれていますか?


「いいえ、全く待っていませんよ。行きましょう。私のことは、レニーと呼んでください」
「はい、私はメイです。よろしくお願いします!」


 顔いっぱいにふんわりとした笑顔を浮かべるヒロイン、メイ様。そしてその笑顔に、同じく柔らかい表情でこたえる殿下。殿下っていつもあんなに意地悪なのに、そんなお顔もできるのですか……。

 何だかお似合い、です。
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