ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
 殿下とヒロインの尾行を開始してから早一時間。なかなか良い雰囲気ですよ。

 せっかくマティアスがリスト化してくれた宿屋一覧は、まさかの一発目でヒロインに出会うという奇跡のために無駄になりましたが、私の顔を隠すという用途で役に立ってますからね。マティアス、ありがとう!

 何を話しているかまでは聞こえませんが、二人はたびたび見つめあって笑い合ったり、時にはヒロインが殿下にボディタッチしています。
 ヒロインパワー恐るべし! 私が殿下に同じことをしたら、多分ボコボコに殴られてますね。

 二人は宿屋を出てからまずは海に向かい、しばらく海を目の前に二人で談笑したあと、街の市場にやってきました。ここからはきっと、立ち食いタイムです。

 ん? 殿下、毒見は大丈夫……?

 何かあってからでは遅いので、少し距離を詰めることにしました。市場は人が多いので、会話が聞こえる程度に近づいても問題なさそうです。

 メイ様と殿下が道を歩くと、市場のお店の人がたくさん話しかけてきます。さすがメイ様、ここでも大人気です。でも分かりますよ……、可愛いもん。


「メイちゃん! 今日は素敵なお相手を連れてるじゃないの。恋人かい?」
「やだ、マリアさん。私が恋人だなんて、レニーに失礼だわ!」


 ヒロインはこういうところでも、攻略対象を立てて謙虚です。あ、メイ様がとある店を指さして、殿下を連れて行こうとしています。確かシナリオで言うと、串に刺さったドーナツみたいなデザートを食べていました。いよいよ殿下の毒見ナシのお食事危機が迫ります。


「ねえ、レニー! あのお店のスイーツは、王都で今大流行なのよ! 一緒に食べてみない?」
「いいね、行こうか」


 いいねじゃないよー、殿下!
 シナリオ通りだったらドーナツ食べても何も起こらないし、気にしなくても大丈夫かなって思いますけど、今日の殿下は何だか目立ってて全然忍べてないです。もしかして王太子だと知って何か盛ってくる人もいるかもしれないですよー!


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