ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「はい、レニー! 召し上がれ!」


 殿下がメイ様から串を受け取りました。二人は少し道の端に寄って、なんとそのまま立ったまま食べるー!! 殿下、口にいれないでー! 毒見毒見!


「(パクッ)」
「……は?」


 殿下がドーナツを口に持っていこうとした所にすかさず走り込み、殿下の手のドーナツにパクッと食いつきました!……私が。


「おいひいでふね、おじゃまひまひた、ではさようなら~」


 メイ様と殿下の間を、ドーナツを口いっぱいに入れたまま通り過ぎます。二人の視線が私の背中に注がれているのがよく分かります。なんだか背中がチクチクしますものね。

 しばらく歩いて振り返ると、遠くの方で串を持ったまま呆然と立ち尽くしているお二人が見えます。急に知らない人が出てきて勝手に一口持っていかれたら、さすがに驚きますよね。

 ちなみに毒見の結果は何もなさそうです。殿下に小さくサムズアップして結果を伝えます。ほー、良かった! 何かあったら一緒にいた私の責任問題になりますから。

 それにしても、この後また二人を尾行していたらメイ様に不審に思われてしまいそうです。このままグルっと元に戻って尾行するか、良い雰囲気のお二人にお任せして先に帰るか、どうしましょう。
 迷うまでもないですね、先に帰りましょう。


「……おい。お前あれはないわ」


 ドス黒い声が聞こえて振り向くと、殿下が一人で立っていました。あれ、ヒロインは? デートは?


「なんか変な雰囲気になったから別れてきた。コレット、あれどういうつもり? デートの邪魔したかった?」
「邪魔?! 違いますよ! 殿下が毒見もなしに食べようとしていたから、通りがかりにたまたま殿下の串が口に入ってしまった街人Bを装って毒見をしたんですよ」
「そんな偶然あるか」


 うわぁ……大きなため息。いい感じのところをお邪魔しちゃってすみませんでした。でも、私も一応殿下のことを思って頑張ったのになぁ。何だかしょんぼりしてしまいます。

 さあ帰るかと言って、殿下が私の腕をつかんで歩き始めました。しょんぼり気分でついていきます。でも、何か忘れているような気がしますね。えっと……


「殿下!!!」
「うわっ! なんだよ!」


 思ったより大きな声が出てしまいました。だって、今日の予定はこれで終わりじゃないですよ!


「財布! 財布を盗んだ泥棒を追いかけないと! ヒロインと一緒に!」
「あ……、忘れてた」
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