ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
▼コレットの指示その五 『小屋に入る前にしばらく外で待機』
 一晩中馬で走って、雨に濡れて寒くて、疲れたんだ……。なんだかとても……眠いんだ……


「キャッ、私ったらつい! ごめんなさいアラン」


 やっとセミが俺から離れた。雨はどんどん強くなる。


「アラン、助けに来てくれてありがとう。雨宿りできるところを探しましょう」
「ああ、疲れたな」


 横でずっとヒロインが喋っている気がするが、耳に入ってこない。俺はこれから危険な目に遭うんだぞ。樹液を吸い尽くされるかもしれないんだぞ。
 ああ、うるせぇ。セミがミンミンうるせぇ。

▼コレットの指示その六 『小屋に入っても着替えるな』
 当たり前だろ! こんな狭い小屋で、ヒロインの目の前で脱げるかよ! とにかく暖炉に火だ。火で服を乾かすんだ。

「ねえ、アラン。聞いてる? うちのお父様は、あんなに素行の悪いコレット様がレオナルド殿下の婚約者だなんて、お可哀そうだって嘆いているの。だから、私が代わりに殿下をお慰めできたら……って思ってた。でも私、いくら相手がレオナルド殿下だと言っても、自分の気持ちを殺す事なんてできないっ……! こうしてアランは私のことを助けにきてくれたでしょ? 私が今一番大切に想っているのは、アラ……」
「ストップ!!!!」


 ミンミンどころじゃねえっ! 俺の名前を軽々しく口にするな!


「なぜ止めるの? 私、本気よ。アランだって、自分の気持ちに気付いているんでしょ? だってアランはいつも私の近くにいてくれた。私がレオナルド殿下に近付いたのは、お父様に言われて仕方なくしたことなの。本当の気持ちは違うわ。信じて! 私はアランのことが……」
「ストップ!!!」


 セリフが長すぎて、全然頭に入ってこない。しかもコイツ、レオ狙いかと思ったら俺のこともしっかり狙っているじゃないか。攻略対象、数打ちゃ当たる! とでも思っているのか?


「アラン、本当に私の話を聞いてる? いつも私を近くで見守ってくれていたのよね? 今日こうして助けに来てくれて、改めて気付いたの。やっぱり私にはあなたが必要だって。さあ、服は乾いたわね。もう夜だし、雨もやまないし、今日はここで寝るしかないと思うのよ。アランも疲れたでしょ? 貴方はベッドで寝てね! 私は床で寝るから」


 まずい、毎度毎度ヒロインのセリフが長すぎて眠気が……。


「あら、どうしたの? 動けないほど疲れたかしら? さあ、私につかまって」


 うわぁ、触るな! 俺の、俺の樹液があっ……! 誰か助けてくれ……!
 ヒロインに迫られて、俺が最大のピンチに陥ったその時、小屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。


「……アラン?」
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