寝取られ妻の憂鬱
一話
〇学校(職員室・夕方)
・夕日が差し込む放課後の職員室。
教頭「明日から佐藤先生が産休にはいられます。佐藤先生一言お願いします」
・大きなお腹の佐藤(26)が、華やかな花束を抱えて立っている。
・その周囲を同僚の教師たちが温かい空気で囲んでいる。
佐藤「妊娠初期からこれまで、たくさんサポートしていただきありがとうございました」
佐藤「元気な赤ちゃんを産みます!」
・若々しく幸せいっぱいの笑顔で挨拶する佐藤。
・パチパチと、職員室全体に祝福の拍手が巻き起こる。
一菜M「26歳で産休か……」
一菜M「いいな。私もいつか」
・周囲に合わせて拍手をしながらも、その幸せそうな姿をどこか羨望の眼差しでぼんやりと見つめている一菜。
・一菜の切なげな横顔から場面転換。
〇スーパー~マンションのキッチン(18時半頃)
・夕暮れの街。両手にスーパーの買い物袋を提げ、小走りで急ぐ一菜。
一菜「いけない。遅くなっちゃった」
一菜「今日は修平さんがお友達を連れてくる予定だったのに」
・マンションに帰り着き、キッチンでドタバタと慌ただしく袋から食材を取り出す。
一菜「急いでご飯のしたくしなくちゃ」
・手早くエプロンを身に着け、包丁を握り手際よく料理を始める。
一菜M「それにしても、修平さんが友達を連れてくるなんて珍しいな」
一菜M「結婚してから初めてかも」
・トントンと小気味よい包丁の音。食材を切りながら、ふと思考を巡らせる一菜。
一菜M「夫とは結婚して三年目」
一菜M「結婚当初は玉の輿だとみんなに羨ましがられたけど」
一菜M「最近は肝心なアレがないのが悩みの種、そうセックスレスなのだ」
一菜M「彼とは数回、体を重ねただけ」
一菜M「このままずっとレスだったらどうしようと、ここ最近は考え出したら止まらない」
一菜M「この前だって……」
・包丁を持つ手がふと止まり、沈んだ表情になる。
〇回想・夜(寝室)
N「一週間前」
・静まり返った寝室。
一菜「ねぇ、修平さん。久しぶりにどうかな……」
・可愛いパジャマに新品の下着を身につけた一菜。
・緊張に震える手で、背を向けて眠る夫・修平の背中にそっと抱き着き、勇気を振り絞って誘う。
修平「(くるりと振り返り)一菜とはそういうことしなくても愛してるよ」
・作業をこなすように、ちゅっと一菜の頬に事務的なキスをして、再び背を向けて眠ってしまう修平。
・明確な拒絶に、目を見開いてショックを受ける一菜。
一菜M「そういうことじゃないのに……」
・冷たい修平の背中を見つめ、掛け布団の端をギュッと握りしめて切なそうに俯く一菜。場面転換。
〇現在
・ガチャリと玄関のドアが開く音。
修平「ただいま」
一菜「あ、帰って来た。おかえりなさい」
・エプロン姿のまま、パタパタと小走りで玄関へ駆けて行く一菜。
・玄関には、スーツ姿の修平と、見知らぬ長身の男が立っている。
修平「一菜、紹介するよ。こちら、氷谷泉」
修平「大学時代の後輩だ」
・愛想の良い笑顔で紹介する修平。その後ろで、泉がぺこりと爽やかな笑顔で頭を下げる。
泉「氷谷です。はじめまして」
一菜「は、初めまして、妻の一菜です」
一菜M「うわ……すっごい美形。修平さんの友達にこんな人いたんだ」
・切れ長で魅惑的な瞳、ラフな格好ながらも洗練された泉の容姿に、思わずまじまじと見惚れてしまう一菜。
泉「これ、たいしたものじゃありませんがよかったらどうぞ」
・手土産の高級そうなワインとケーキをスマートに差し出す泉。
・甘く眩しいくらいの笑顔を向けられ、一菜はドギマギしてさらに固まる。
一菜「ありがとうございます。あの、どうぞあがってください」
・慌てて来客用のスリッパを出し、泉を中へと促す一菜。
泉「お邪魔します」
・長い脚を踏み入れ、きちんと靴を揃えてあがる泉。所作がいちいち美しい。
一菜「……」
・その後ろ姿に、またしても無意識に見惚れてしまう一菜。
〇キッチン(ダイニング)
・ダイニングテーブルに三人でつき、ワイングラスで乾杯する。
・テーブルには、一菜が腕によりをかけた色鮮やかな手料理が所狭しと並んでいる。
修平「遠慮しないで、どんどん食べてくれ」
・自分はほとんど箸をつけず、優雅にワイングラスを傾けながら泉にすすめる修平。
・一菜は二人の皿に取り分けたり、飲み物を気遣ったりとせっせと動いている。
泉「どれも美味そうですね。いただきます」
・目を輝かせ、無邪気な笑みを浮かべて早速箸をつける泉。
一菜「お口に合うかわかりませんが」
・小皿を差し出しながら、緊張した面持ちで彼の反応を気にする一菜。
泉「ん、おいしい。これ全部奥さんが?」
一菜「はい、そう言ってもらえてよかったです」
・心底美味しそうに頬張る姿を見て、一菜はパァッと表情を明るくしホッとする。
泉「これも。あ、これもうまい」
・次々と料理を口に運び、子供みたいな無邪気な笑顔で食べ続ける泉。
・その気持ちの良い食べっぷりに、思わず自然な笑みがこぼれる一菜。
一菜M「こんなふうに誰かに美味しそうに食べてもらうの久しぶり」
一菜M「修平さんはあまり美味しいって言わないから……」
・ちらっと隣の修平を見るが、食が細いため料理にはほぼ手を付けていない。
修平「泉も早く結婚したらいいじゃないか。いいぞ、結婚」
・どこか余裕のある態度で、優雅にワイングラスをまわす修平。
泉「先輩知ってるでしょ? 俺に相手がいないの」
・口いっぱいにご飯を頬張ったまま、拗ねたように修平をわざとらしく睨む泉。
修平「お前が本気出せばすぐできるだろ」
泉「俺なんて全然ですよ」
泉「そういえばお二人は、どうやって出会ったんでしたっけ?」
・一菜と修平の顔を交互にみる泉。まったく興味ないが、興味がありふりをしている
修平「仕事だよ。一菜の学校と、うちの銀行が取引合って、それで」
泉「なるほど」
一菜「そういえば、氷谷さんは何をされてるんですか?」
泉「俺はいたって普通のサラリーマンですよ」
・一菜に顔を向け、人畜無害な好青年を装ってニコリと笑う泉。実は嘘で、彼はレンタル友人でフリーター
・三人の和気あいあいとした談笑の風景から、ゆっくりと暗転。
N「数時間後」
〇リビング
・深夜。テーブルの上は片付き始めている。
修平「泉、よかったら泊って行けよ」
・ソファで気持ちよさそうにうとうとしている泉に、修平が声をかける。
泉「(目をこすりながら)いいんですか? すみません。じゃあお言葉に甘えて」
〇キッチン
・少し離れたキッチンで、洗い物をしながらふたりのやりとりを聞いていた一菜。
一菜M「泊まるのか……」
一菜M「明日の朝食、何かあったかな」
・濡れた手をタオルで拭き、冷蔵庫の中を覗き込んで明日の献立を考える。
修平「一菜は先に寝てて。泉ともう少し話したら寝るから」
一菜「うん、わかった」
〇寝室
・ベッドに入り、部屋の明かりを消す一菜。
一菜M「ふぅ、疲れた」
一菜M「修平さん。よほど楽しんだろうな」
・さっきまでの、珍しく饒舌で楽しそうだった修平の顔が脳裏に浮かぶ。
・心地よい疲労感に包まれ、すぐにうとうとし始め、深い眠りに落ちる一菜。
× × ×
一菜「スースー」
・暗闇の中、穏やかな寝息を立てて爆睡中の一菜。
・ふと、「ギシッ」とベッドのマットレスが重みで沈む音がして、一菜の意識が浮上する。
一菜M「修平さん?」
・背後に人の気配を感じ、眠い目をこすりながらぼんやりと振り返る。
一菜「えっ……」
・背後から伸びてきた大きな手に、もぞもぞとパジャマ越しに体を触られる。
一菜M「嘘、これってもしかして」
・一気に睡魔が吹き飛び、途端に心臓が大きくドキドキし始める一菜。
一菜M「嬉しい。修平さんから求めてくれるなんて」
・辺りは真っ暗で相手の顔は何も見えないが、当然夫の修平だと思い込み、熱を帯びた吐息をもらしながら相手の首元に両手を回す。
一菜「ん……」
・深く熱いキスをされ、そのまま静かにパジャマを脱がされる。
一菜「修平さん……」
一菜「あっ、んっ」
・軽く前戯してすぐ挿入。
・一菜は愛する夫の修平だと思い込み、歓喜と共に抱かれているが、上に乗っているのは実は泉。
泉「……」
・暗闇の中、一菜のあられもない姿を見下ろし、音もなくニヤリと口角を上げる泉。妖しい笑みで場面転換。
〇翌朝
・朝の光が差し込む寝室。
一菜「ん、朝……」
・眩しそうに目をこすりながら、ゆっくりと身を起こす一菜。
・ふと横を見ると、隣には布団をすっぽりと被って丸まっている人物(髪の毛だけが見えている)がいる。
一菜M「昨日はすごく嬉しかったな」
一菜M「まさかレスが解消できるなんて思わなかった」
・昨夜の甘い時間を思い出し、顔を赤らめてこっそりほくそ笑む。そして、愛おしげにそっと隣の人物の肩に触れる。
一菜「修平さん、起きてください。朝ですよ」
・優しく体を揺さぶって起こそうとする一菜。
一菜「遅刻しちゃ……」
・なかなか起きないため、「もう」と微笑みながら勢いよく布団を剥ぎ取る。
一菜「えっ!?」
・布団の下から現れた顔を見て、一菜の顔からサーッと血の気が引き、土気色に青ざめる。
・あまりの衝撃に言葉を失い、思わずベッドの上でズルズルと後退る。
泉「んー……」
・朝日に顔を顰め、目をごしごしとこすりながら無防備に寝返りをうつ泉。
・その顔を直視し、一菜の全身がガタガタと小さく震え始める。
一菜M「どうしてここに泉くんが……?」
・理解不能な事態に、瞳孔が開き、完全に絶望の色に染まり切る一菜の顔。
・恐怖と混乱の中、同じベッドに横たわる一菜と泉を俯瞰するカットでEND。