寝取られ妻の憂鬱
四話
〇家(玄関)
泉「俺あれから考えたんだけどさ」
・ドアの内側。ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、じりじりと一菜に詰め寄る泉。
一菜「な、なに……?」
一菜M「この人、何を考えているのかすごく読みづらい」
・得体の知れない圧迫感に冷や汗を流し、後ずさりする一菜。背中が壁にぶつかる。
泉「買い物でも行きませんか?」
一菜「え? 買い物?」
・予想外の提案に目を丸くする一菜
泉「欲しい物って言われても、すぐに思いつかなくて」
泉「見ながら選んでもいいですか?」
・ふっと表情を和らげ、綺麗に微笑む。
・そのあまりにも整った美しい顔立ちに、一菜は思わずドクンと胸を高鳴らせてしまう。
一菜「そういうことなら……」
一菜M「高額なものねだられたりしないかな」
一菜M「でも、仕方ないよね。ばらされるよりはまし」
・財布の中身を想像して不安になりつつも、背に腹は代えられないと腹を括る。
泉「そうと決まれば行きましょう!」
一菜「え?今から?」
泉「どうせ暇なんでしょ」
一菜「……」
・強引なペースに乗せられ、しぶしぶ頷く。
・泉は思い通りになった子供のように嬉しそうな顔を見せる。
〇街中(都内)
・人通りの多い休日の街。二人で並んでプラプラと歩いている。
一菜「さくっと終わらせてね」
一菜「こんなところ誰かに見られたらまずいから」
・帽子を深く被り、知り合いがいないか泉の隣でせわしなくキョロキョロと周囲を警戒する。
泉「夫と間違えて寝た男と歩いてるから?」
・すれ違う人に聞こえそうな絶妙な声量でからかう。
一菜「そういうこと、こんなところで言わないで!」
・顔を真っ赤にして慌てて泉の口を塞ごうと制止する。
・泉は一菜の焦る様子がたまらなく愉快そうに笑う。
泉「めっちゃ焦ってるし。うける」
一菜「あのね、泉くん。私は……」
・真面目に説教しようと言いかけたところで、泉に言葉を遮られる。
泉「あ、あの店行きたい」
泉「入りましょう」
・一菜の手首をがしっと掴む。
一菜「あ、ちょっと。泉くん!」
・長身の泉に強引に引っ張られ、ヒールがもつれてたじたじになる一菜。
一菜「もう……本当に勝手なんだから」
・前を歩く泉の広い背中を見つめながら、小さく一人ごちる。
〇ショップ(電気屋)
泉「あ、これ前から欲しかったやつじゃん」
・オーディオコーナー。高級そうなヘッドホンを手に取り、ノリノリで試着している。
一菜M「ヘッドホンか」
・泉の隣に並び、そっとディスプレイされた同じ商品の値札を手に取ってみる。
一菜「え、10万……!?」
・ゼロの数に目をひん剥く。
一菜M「意外と高いんだな。一夜の代償が……」
・財布の紐の固い主婦にとって痛すぎる出費に、あからさまに肩を落とし凹む一菜
泉「……」
・ヘッドホンを外すふりをしながら、鏡越しに一菜の絶望した顔をこそっと観察している。
泉「ねぇ、一菜さん。やっぱあっちの店行っていい?」
一菜「あ、うん」
・高額請求を免れ、あからさまにホッとした顔になる。
・泉の背中を追いかけ、連れられるがまま店外へ。
〇某メンズのブランドショップ
・洗練された静かな店内。
一菜M「時計にネクタイ、ブレスレット。なんでもあるんだな」
・ショーケースに並ぶ高級小物を眺めながら、プラプラと歩いている。
一菜「あ。このネクタイピン可愛い」
・シンプルなシルバーのネクタイピンに目が留まる。
一菜M「修平さんに似合いそう」
・いつもスーツをビシッと着こなす夫の姿を想像し、ふわりと愛しげにほくそ笑む。
泉「先輩に?」
・いつの間にか背後に立っていた泉が、低い声で尋ねる。
一菜「似合いそうだなーって」
泉「ふーん」
・途端に、つまらなそうに目を伏せる。
・少し口が尖り、機嫌を損ねた子供のような表情。
泉「ひどいことされてるとも知らず、まだあの人のために何かしようとしてるんだ」
・ショーケースを見つめたまま、一菜には聞こえるか聞こえないかの音量でぼそっと呟く。
一菜「え?何か言った?」
泉「なんでもない」
・ぶすっと不貞腐れた顔のまま、足早に一菜のそばを離れる。
泉「出よう」
一菜「あ、待って」
・振り返りもせずに店を出ていく泉を慌てて追いかける。
一菜M「急に不機嫌になっちゃった。どうしたんだろう」
一菜M「なにか気に障るようなこと、言ったかな」
・泉の地雷がどこにあったのかわからず、困惑する一菜。
〇街中
・街路樹のある歩道。柵(またはベンチ)に並んで腰を下ろしている。
一菜「結局どうするの?」
・テイクアウトしたコーヒーを持ち、隣の泉に問う。
泉「別に欲しい物なんてないわ」
・コーヒーにも口をつけず、ぼんやりと惚けたような、虚無感を湛えた瞳で真っ直ぐ前を見据えている。
一菜M「一日付き合ったのに……」
一菜「じゃあ私帰るね」
・これ以上付き合いきれないと、すっと立ち上がる。
・踵を返そうとした瞬間、力強く手首を掴まれた。
泉「いいの? ばらすよ?」
・座ったまま、下から覗き込むようにじっと一菜を睨む。鋭い視線。
一菜「……っ、じゃあ何か選んでよ」
・逃げられない現実にぐっと唇を噛む。
泉「さっき、ヘッドホンの値段見てビビってたくせに」
・意地悪な笑みが戻る泉。
一菜「……そ、それは」
・図星を突かれ、目をキョロキョロと泳がせる。ひどくばつが悪そう。
泉「ぷっ、あんたって面白いよな」
・耐えきれなくなったように吹き出す。
一菜「面白い? どこが。反対でしょ」
一菜「面白みのない女だとは何度も言われたことあるけど」
・キョトンとした顔で首を傾げる一菜
泉「すぐ感情が顔に出る。わかりやすすぎ」
・指をさしてケラケラと笑う泉。
一菜「そ、それは……否めないけど。年上をからかわないの」
・眉間にぐっと皺を寄せ、少し悔しそうに唇を尖らせる一菜
泉「わかった。じゃあ、今から家に行っていい?」
泉「飯食わせてよ。それで口止めされてあげる」
・唐突な要求に驚く一菜
・ニッと無邪気に口角を上げる泉
一菜「そんなのでいいの?」
泉「一菜さんの飯うまかったし」
泉「俺、家庭料理って知らないんだよね。マックとかよりうまいね」
・どこか遠くを見るような、あっけらかんとした表情で語る。
・その言葉の裏にある孤独の匂いを感じ取り、少し胸が締め付けられ、切なくなる一菜。
一菜M「たしかにあの日よく食べてたな」
一菜M「今日は修平さんも遅くなるって言ってたし、それでチャラになるなら」
・少しの同情と安堵が入り混じる。
一菜「いいよ、わかった」
泉「やった」
・パッと顔を輝かせ、急に年齢相応の子どもっぽさを見せる。
・コロコロと表情が変わる姿に、やはり不思議な人だなと感じながら、二人は連れ立って一菜の家へ向かう。
〇家(リビング~玄関)
泉「お邪魔しまーす」
・慣れた様子で、元気な調子で家に上がってくる泉。
・どこかウキウキして嬉しそう。
一菜「ちょっと待ってて。すぐ用意するから」
泉「はいはい」
・ドサッとソファに寝転がり、のんびりくつろぎ始める。
・その無防備な後ろ姿を見ながら、一菜はエプロンを着けて夕食の準備を始める。
一菜M「やっぱり掴めない人」
一菜M「そもそも先輩の妻に手を出したことを悪いと思ってないのかな」
一菜M「まさかまた変なこと考えてないよね」
・ソファでスマホをいじりながらゴロゴロしている泉を、包丁を持ちながらじっと警戒して見る。
一菜M「こんなところ、修平さんに見られたら言い訳できない」
一菜「……?」
・そのとき、マンションの廊下からコツコツと足音が近づいて来る音が聞こえた
一菜M「え? もしかして、修平さん!?」
・血の気が引く。遅くなるはずの夫が帰ってきた。
一菜「泉くん、隠れて。修平さん!」
・小声で叫び、慌てて脱いぎ捨てられた泉の大きなスニーカーを抱え込み、見えない位置へ隠す。
・泉は身を翻し、素早く寝室へ身を隠す。
泉「一菜さんも早く」
・寝室のドアの隙間から顔を出し、手招きする。
一菜「え? ちょっ……!」
・訳も分からず、泉に腕を掴まれる。
〇寝室
・強い力で引き寄せられ、そのまま狭いクローゼットの中へと押し込まれる。
・ピシャリとクローゼットの扉が閉まる。完全な暗闇。
一菜M「どうして私まで……」
・状況が理解できず、冷や汗がだらだらと頬を伝う。
・極端に狭い空間。一菜の背中に泉の胸が密着し、背後からすっぽりと抱きしめられるような態勢になっている。
・密着した体温で暑く、緊張で呼吸も苦しい。はぁ、はぁと息が上がっている。
泉「一菜さん、ドキドキしてますね」
・耳元で、甘く低い声が囁かれる。
一菜「シッ、静かに」
・顔を真っ赤にしてヒソヒソと抗議する。
・暗闇の中、泉は余裕たっぷりの妖しい微笑みを浮かべている。
一菜M「え……?」
・泉の大きな手が、もぞもぞと一菜の腰のラインをなぞり、ゆっくりと体をまさぐり始める。
・服越しに、太ももの内側をねっとりと撫で回される。
一菜「ちょっと、やめて」
・ビクッと体を震わせ、必死に小声で反論し、泉の手を退けようとする。
・しかし泉は意に介さず、ニヤリと笑いながら、逃げ場のない一菜の焦る反応を楽しんでいる。
・恐怖と快感への抗いで、一菜の息が自然と荒くなる。
SE『ガチャ』
・寝室のドアが開く音がする。二人の動きがピタリと止まる。
一菜M「まずい、入ってきた」
・心臓が破裂しそうなほど脈打つ。
修平「一菜? いないか」
・寝室へ入ってきた修平の足音が、室内に響く。
修平「……よかった」
・誰もいないと確信したのか、低く安堵した声。
・ゴソゴソと、寝室の引き出しを乱暴に開け閉めし、何かを漁っている音が聞こえてくる。
一菜M「今、よかったって言った? どういうこと?」
・いつも優しい夫から出た不可解で意味深な言葉に、暗闇の中で呆然とする。
修平「あれ。ないな。どこにやったんだろう」
・焦った様子で何かを探し続けている。
・一菜の心臓の鼓動はピークに達し、バクバクと五月蝿い。
一菜M「修平さん、何してるんだろう……」
・さっきの「よかった」という言葉も、血眼になって探している物も気になり、思考がぐちゃぐちゃになる。
・足音が、だんだんとクローゼットの方へ近づいてくる気配。
一菜M「嘘、近づいてくる。この状況。もし見つかったら……」
・間男とクローゼットの中で密着している最悪の状況。修平の足音が目の前で止まる。心拍数が異常に加速する。
・ゆっくりと、クローゼットの扉のノブに手がかけられ、光が差し込み始める。
一菜M「もうだめだ……見つかっちゃう」
・絶望し、ギュッと強く目を閉じる。
・扉が開かれる寸前の、息を呑むハラハラとした緊迫感の中でEND。
泉「俺あれから考えたんだけどさ」
・ドアの内側。ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、じりじりと一菜に詰め寄る泉。
一菜「な、なに……?」
一菜M「この人、何を考えているのかすごく読みづらい」
・得体の知れない圧迫感に冷や汗を流し、後ずさりする一菜。背中が壁にぶつかる。
泉「買い物でも行きませんか?」
一菜「え? 買い物?」
・予想外の提案に目を丸くする一菜
泉「欲しい物って言われても、すぐに思いつかなくて」
泉「見ながら選んでもいいですか?」
・ふっと表情を和らげ、綺麗に微笑む。
・そのあまりにも整った美しい顔立ちに、一菜は思わずドクンと胸を高鳴らせてしまう。
一菜「そういうことなら……」
一菜M「高額なものねだられたりしないかな」
一菜M「でも、仕方ないよね。ばらされるよりはまし」
・財布の中身を想像して不安になりつつも、背に腹は代えられないと腹を括る。
泉「そうと決まれば行きましょう!」
一菜「え?今から?」
泉「どうせ暇なんでしょ」
一菜「……」
・強引なペースに乗せられ、しぶしぶ頷く。
・泉は思い通りになった子供のように嬉しそうな顔を見せる。
〇街中(都内)
・人通りの多い休日の街。二人で並んでプラプラと歩いている。
一菜「さくっと終わらせてね」
一菜「こんなところ誰かに見られたらまずいから」
・帽子を深く被り、知り合いがいないか泉の隣でせわしなくキョロキョロと周囲を警戒する。
泉「夫と間違えて寝た男と歩いてるから?」
・すれ違う人に聞こえそうな絶妙な声量でからかう。
一菜「そういうこと、こんなところで言わないで!」
・顔を真っ赤にして慌てて泉の口を塞ごうと制止する。
・泉は一菜の焦る様子がたまらなく愉快そうに笑う。
泉「めっちゃ焦ってるし。うける」
一菜「あのね、泉くん。私は……」
・真面目に説教しようと言いかけたところで、泉に言葉を遮られる。
泉「あ、あの店行きたい」
泉「入りましょう」
・一菜の手首をがしっと掴む。
一菜「あ、ちょっと。泉くん!」
・長身の泉に強引に引っ張られ、ヒールがもつれてたじたじになる一菜。
一菜「もう……本当に勝手なんだから」
・前を歩く泉の広い背中を見つめながら、小さく一人ごちる。
〇ショップ(電気屋)
泉「あ、これ前から欲しかったやつじゃん」
・オーディオコーナー。高級そうなヘッドホンを手に取り、ノリノリで試着している。
一菜M「ヘッドホンか」
・泉の隣に並び、そっとディスプレイされた同じ商品の値札を手に取ってみる。
一菜「え、10万……!?」
・ゼロの数に目をひん剥く。
一菜M「意外と高いんだな。一夜の代償が……」
・財布の紐の固い主婦にとって痛すぎる出費に、あからさまに肩を落とし凹む一菜
泉「……」
・ヘッドホンを外すふりをしながら、鏡越しに一菜の絶望した顔をこそっと観察している。
泉「ねぇ、一菜さん。やっぱあっちの店行っていい?」
一菜「あ、うん」
・高額請求を免れ、あからさまにホッとした顔になる。
・泉の背中を追いかけ、連れられるがまま店外へ。
〇某メンズのブランドショップ
・洗練された静かな店内。
一菜M「時計にネクタイ、ブレスレット。なんでもあるんだな」
・ショーケースに並ぶ高級小物を眺めながら、プラプラと歩いている。
一菜「あ。このネクタイピン可愛い」
・シンプルなシルバーのネクタイピンに目が留まる。
一菜M「修平さんに似合いそう」
・いつもスーツをビシッと着こなす夫の姿を想像し、ふわりと愛しげにほくそ笑む。
泉「先輩に?」
・いつの間にか背後に立っていた泉が、低い声で尋ねる。
一菜「似合いそうだなーって」
泉「ふーん」
・途端に、つまらなそうに目を伏せる。
・少し口が尖り、機嫌を損ねた子供のような表情。
泉「ひどいことされてるとも知らず、まだあの人のために何かしようとしてるんだ」
・ショーケースを見つめたまま、一菜には聞こえるか聞こえないかの音量でぼそっと呟く。
一菜「え?何か言った?」
泉「なんでもない」
・ぶすっと不貞腐れた顔のまま、足早に一菜のそばを離れる。
泉「出よう」
一菜「あ、待って」
・振り返りもせずに店を出ていく泉を慌てて追いかける。
一菜M「急に不機嫌になっちゃった。どうしたんだろう」
一菜M「なにか気に障るようなこと、言ったかな」
・泉の地雷がどこにあったのかわからず、困惑する一菜。
〇街中
・街路樹のある歩道。柵(またはベンチ)に並んで腰を下ろしている。
一菜「結局どうするの?」
・テイクアウトしたコーヒーを持ち、隣の泉に問う。
泉「別に欲しい物なんてないわ」
・コーヒーにも口をつけず、ぼんやりと惚けたような、虚無感を湛えた瞳で真っ直ぐ前を見据えている。
一菜M「一日付き合ったのに……」
一菜「じゃあ私帰るね」
・これ以上付き合いきれないと、すっと立ち上がる。
・踵を返そうとした瞬間、力強く手首を掴まれた。
泉「いいの? ばらすよ?」
・座ったまま、下から覗き込むようにじっと一菜を睨む。鋭い視線。
一菜「……っ、じゃあ何か選んでよ」
・逃げられない現実にぐっと唇を噛む。
泉「さっき、ヘッドホンの値段見てビビってたくせに」
・意地悪な笑みが戻る泉。
一菜「……そ、それは」
・図星を突かれ、目をキョロキョロと泳がせる。ひどくばつが悪そう。
泉「ぷっ、あんたって面白いよな」
・耐えきれなくなったように吹き出す。
一菜「面白い? どこが。反対でしょ」
一菜「面白みのない女だとは何度も言われたことあるけど」
・キョトンとした顔で首を傾げる一菜
泉「すぐ感情が顔に出る。わかりやすすぎ」
・指をさしてケラケラと笑う泉。
一菜「そ、それは……否めないけど。年上をからかわないの」
・眉間にぐっと皺を寄せ、少し悔しそうに唇を尖らせる一菜
泉「わかった。じゃあ、今から家に行っていい?」
泉「飯食わせてよ。それで口止めされてあげる」
・唐突な要求に驚く一菜
・ニッと無邪気に口角を上げる泉
一菜「そんなのでいいの?」
泉「一菜さんの飯うまかったし」
泉「俺、家庭料理って知らないんだよね。マックとかよりうまいね」
・どこか遠くを見るような、あっけらかんとした表情で語る。
・その言葉の裏にある孤独の匂いを感じ取り、少し胸が締め付けられ、切なくなる一菜。
一菜M「たしかにあの日よく食べてたな」
一菜M「今日は修平さんも遅くなるって言ってたし、それでチャラになるなら」
・少しの同情と安堵が入り混じる。
一菜「いいよ、わかった」
泉「やった」
・パッと顔を輝かせ、急に年齢相応の子どもっぽさを見せる。
・コロコロと表情が変わる姿に、やはり不思議な人だなと感じながら、二人は連れ立って一菜の家へ向かう。
〇家(リビング~玄関)
泉「お邪魔しまーす」
・慣れた様子で、元気な調子で家に上がってくる泉。
・どこかウキウキして嬉しそう。
一菜「ちょっと待ってて。すぐ用意するから」
泉「はいはい」
・ドサッとソファに寝転がり、のんびりくつろぎ始める。
・その無防備な後ろ姿を見ながら、一菜はエプロンを着けて夕食の準備を始める。
一菜M「やっぱり掴めない人」
一菜M「そもそも先輩の妻に手を出したことを悪いと思ってないのかな」
一菜M「まさかまた変なこと考えてないよね」
・ソファでスマホをいじりながらゴロゴロしている泉を、包丁を持ちながらじっと警戒して見る。
一菜M「こんなところ、修平さんに見られたら言い訳できない」
一菜「……?」
・そのとき、マンションの廊下からコツコツと足音が近づいて来る音が聞こえた
一菜M「え? もしかして、修平さん!?」
・血の気が引く。遅くなるはずの夫が帰ってきた。
一菜「泉くん、隠れて。修平さん!」
・小声で叫び、慌てて脱いぎ捨てられた泉の大きなスニーカーを抱え込み、見えない位置へ隠す。
・泉は身を翻し、素早く寝室へ身を隠す。
泉「一菜さんも早く」
・寝室のドアの隙間から顔を出し、手招きする。
一菜「え? ちょっ……!」
・訳も分からず、泉に腕を掴まれる。
〇寝室
・強い力で引き寄せられ、そのまま狭いクローゼットの中へと押し込まれる。
・ピシャリとクローゼットの扉が閉まる。完全な暗闇。
一菜M「どうして私まで……」
・状況が理解できず、冷や汗がだらだらと頬を伝う。
・極端に狭い空間。一菜の背中に泉の胸が密着し、背後からすっぽりと抱きしめられるような態勢になっている。
・密着した体温で暑く、緊張で呼吸も苦しい。はぁ、はぁと息が上がっている。
泉「一菜さん、ドキドキしてますね」
・耳元で、甘く低い声が囁かれる。
一菜「シッ、静かに」
・顔を真っ赤にしてヒソヒソと抗議する。
・暗闇の中、泉は余裕たっぷりの妖しい微笑みを浮かべている。
一菜M「え……?」
・泉の大きな手が、もぞもぞと一菜の腰のラインをなぞり、ゆっくりと体をまさぐり始める。
・服越しに、太ももの内側をねっとりと撫で回される。
一菜「ちょっと、やめて」
・ビクッと体を震わせ、必死に小声で反論し、泉の手を退けようとする。
・しかし泉は意に介さず、ニヤリと笑いながら、逃げ場のない一菜の焦る反応を楽しんでいる。
・恐怖と快感への抗いで、一菜の息が自然と荒くなる。
SE『ガチャ』
・寝室のドアが開く音がする。二人の動きがピタリと止まる。
一菜M「まずい、入ってきた」
・心臓が破裂しそうなほど脈打つ。
修平「一菜? いないか」
・寝室へ入ってきた修平の足音が、室内に響く。
修平「……よかった」
・誰もいないと確信したのか、低く安堵した声。
・ゴソゴソと、寝室の引き出しを乱暴に開け閉めし、何かを漁っている音が聞こえてくる。
一菜M「今、よかったって言った? どういうこと?」
・いつも優しい夫から出た不可解で意味深な言葉に、暗闇の中で呆然とする。
修平「あれ。ないな。どこにやったんだろう」
・焦った様子で何かを探し続けている。
・一菜の心臓の鼓動はピークに達し、バクバクと五月蝿い。
一菜M「修平さん、何してるんだろう……」
・さっきの「よかった」という言葉も、血眼になって探している物も気になり、思考がぐちゃぐちゃになる。
・足音が、だんだんとクローゼットの方へ近づいてくる気配。
一菜M「嘘、近づいてくる。この状況。もし見つかったら……」
・間男とクローゼットの中で密着している最悪の状況。修平の足音が目の前で止まる。心拍数が異常に加速する。
・ゆっくりと、クローゼットの扉のノブに手がかけられ、光が差し込み始める。
一菜M「もうだめだ……見つかっちゃう」
・絶望し、ギュッと強く目を閉じる。
・扉が開かれる寸前の、息を呑むハラハラとした緊迫感の中でEND。