dull
 バスローブを羽織りサイドボードからもう1個スウィンググラスを取り出した。アイスペイルに溜まった水を捨て、フリーザーのロックアイスを入れる。ウィスキーボトルを目の前にかざして見る。3分の1しか無い。2人で飲むとあっと言う間になくなってしまうな。新しいのをキッチンユニットの中から取り出してテーブルの上に置く。
 明が来た。せっかちにチャイムを鳴らすのは明。ドアを開けるとヘルメットのままの明がぬぅっと入って来た。
「肴はあるか」
「適当にね」
「足りそうか」
「わからない。もっと沢山あったほうが良いかな」
「よし、待ってろ」
 こんな風にせっかちなのは明の良いところでもあり、少し煩わしいところでもある。
 玄関のフロアに腰を下ろし、壁に寄り掛かって明を待った。10分程するとまたせっかちにチャイムが鳴った。ドアを開けると終夜営業のスーパーの袋を下げた明が、先程と同じようにヘルメットのままぬぅっと入って来た。
「バイクはどこに置いたの?」
「いつものところ」
「明日の朝会社まで送って」
「起きられたら」
 ライダースーツを脱ぐと、ラフなスウェットを着た細い体が現れた。ヘルメットの中に脱いだものを雑に詰め込んで床に置いた。
 テーブルの上にポンポンと惣菜のパックを並べ、私のほうを向き、「来いよ」と言った。彼は自分で自分のために水割りを作り、乾杯もせずに2口で半分まで飲んでしまった。
 少し伸び過ぎじゃないかと思われるような漆黒の髪。今にもつながってしまいそうな太い眉、優しい目、高い鼻、こけた頬、セクシーな唇。イブニンググロウがそのままの顎。すらっと背が高くていい男。オートバイの免許を取ったのは、自分をより格好良く目立たせるため。
 ボトルに3分の1だけ残っていたウィスキーは明が独りで飲んでしまった。2本目を2、3杯飲んだだけで、私はついに眠ってしまい、後はどうなったかわからない。6時にタイマーが作動してFENが聞こえて来た。目が覚めたら明も私も裸だったし、2本目のボトルは空になっていた。
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