dull
 朋子の電話がいつも突然なのは彼女の仕事の性格上とわかっていても、些かむっとさせられる。それなら断ってしまえば良いものを、少なからず良い思いをさせてもらえるので必ずOKの返事をする。朋子もそれを知っているので平気で強引に誘う。
 彼女の仕事はテニスのインストラクター。品川に4面のコートを持つテニスクラブのオーナー。画商をする父親のスネを齧って舐めまくって作ってもらった。それで何故軽井沢に突然行くかと言うと、或るお金持ちのファミリーが朋子の父親を通してテニスのコーチをしてほしいと依頼して来るわけだが、それがお金持ちの気まぐれから突然今日これから軽井沢で、となる。急遽朋子が軽井沢の知り合いのペンションを予約する。で、何故我々が付き合わなければならないか。インストラクター助手として登場してお金持ちのお相手をして差し上げる。費用はお金持ちが出すのでこちらはご馳走になる側。明は必ずと言って良いほど御令嬢や奥様に気に入られ、後日またお会いしましょうと言われる。一番得をしているのは明よ、と朋子は言う。
 明の職業は車雑誌の編集者。好きな車やバイクを徹底的に乗り回し、リポートし、それを気が向いた時雑誌社へ持って行く。明自身はフリーライターと自己紹介している。雑誌の編集者とは絶対言わない。何故だろう。サイドビジネスとして某私立女子高の理科教師をしているがそれは口外厳禁。
 私の仕事はコンピュータープログラマー。女が少ない職種だと思って入ったら、3年目となる今、女が増えて来た。女は何かと男の世界を制覇するね。男は腕力で制覇することが叶わなくなった今の時代に乗り遅れている。

 ホンダビルの前で人待ち顔で立っていると交差点の真ん中で派手にUターンしたバイクが私の目の前で止まった。すぐそこに交番があるってのに明ったら。バイク屋の前の歩道にバイクが乗り上げていても違和感が無い。お巡りさんは見逃してくれたらしい。せっかちな明は私を急かした。ライダースーツに着替えたかったけどそのままヘルメットをかぶり、明の背中にしがみついた。
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