俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「仕事でお疲れのところ、本当にありがとうございました」

 善は柔らかく笑む。

「おおげさだな。うち、恵比寿だからそんなに手間でもないよ」
「送ってもらったことだけじゃなく……私みたいなかわいげのない部下にも親切にしてくださって、感謝しています」

 ルーブデザインは居心地がよい。それは、きっと彼が作り出すムードのおかげなのだ。善はくすりと笑って、肩を揺らした。

「氷堂はかわいいだろ。不器用で一生懸命で……南やほかのメンバーもちゃんと気づいてるから心配するな」

 トクンと小さく心臓が跳ねた。

(え、なにこの反応? 苦手なはずなのに、どうして――)

 理解不能な自身の感情の動きに、日菜子は戸惑う。

「生理的に無理――じゃなくなったら、そのときはふたりで飲みに行こうな」

 そんな言葉を残して、彼の車は走り去っていく。シルバーのセダンが角を曲がって見えなくなっても、日菜子の心臓はまだバクバクしている。そのせいか、バッグのなかのスマホが鳴っているのになかなか気づけなかった。慌てて取り出して応答する。

「もしもし。お待たせしました」
『あ、日菜子?』

 耳に届いたのは母、蓉子の声だ。

「お母さんか。ごめんね、今マンションの外で……すぐに部屋に入るからちょっと待ってて」
『あら、こんな時間までお仕事だったの? 忙しいのね、大丈夫?』
「普通だから、このくらい」
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