俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました

（離婚するために結婚するの？　まったく意味がわからないけど）

「理由の説明ははぶくが、俺は結婚しない主義だ。で、さっきの口ぶりだとお前も相手がどうこうでなく結婚自体に興味がないんだろ？」
「興味というか、向いてないんです」

　善はまるで新しい企画をプレゼンするように言葉巧みに日菜子に解説する。

「お前は氷堂地所のひとり娘だ。俺との縁談がダメになっても次々と新しい相手が出てくるぞ。そのつど、振り袖を着て『ごめんなさい』をするのも面倒だろ」

　両親は日菜子に甘いが、独身を貫くことを認めてくれるどうかはまた別の問題だろう。最終的には許してくれるかもしれないが、おそらく時間はかかる。

「それはそうかもしれません」
「俺も同じだ。お前がダメなら次の女をあてがわれる」

　善は効果的な間を取ってから、ズイと身をのり出した。

「だったら、一度は結婚してしまえばいい」

　一度結婚をして、大失敗だったという形で離婚する。深く傷ついたということにすれば、再婚のすすめも断りやすくなるだろう。それが彼の計画だった。

「互いの名誉のために、離婚後に悪評を広めるのは禁止にしよう。それに多くを語らないほうが、かえって傷が深そうに見えるしな」
「そんな簡単なことでは……契約といっても結婚はするんですよね？　戸籍に残るわけで」

　善は不思議そうな顔で首をかしげる。