俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「なにか飲むか? 紅茶とコーヒーならどっちが――」

 キッチンに向かう彼を追いかけて日菜子も腰をあげる。

「手伝います!」

 軽く振り返って善はほほ笑む。

「いいよ。そんなに気を使うな」

(でも……)

 迷ったけれど、日菜子は勇気を出して彼に気持ちを伝える。

「だって、私、お客さまではないんですよね?」

 驚きに見開かれた彼の目がゆっくりと優しい弧を描く。白い歯のこぼれる善の笑顔に胸が締めつけられた。

(彼は苦手。それは間違いないことなんだけど……)

 どうしてだろう。その意識の奥にもっと別の気持ちが隠れているような気がした。知りたいけれど怖い。心がかき乱される。

 善は日菜子との距離をグッと詰めると、両手で彼女の頬を包み込む。甘い眼差しを注ぎながらささやく。

「そうだな。日菜子は俺の奥さんになるんだった」
「な、名前……知っていたんですね」

 彼が呼ぶと自分の名前がなにか特別なもののように聞こえる。

「当り前だろ。仮にも結婚相手なんだから。日菜子も俺のことは善って呼ぶように」

 さらりと言われたが、日菜子にはハードルが高すぎる。即座に首を左右に振った。

「無理です、絶対」
「努力を放棄した『できない』は禁止。やるからには完璧な夫婦になりたいからな」

 彼は日菜子の頬を軽くつまみながら、口をとがらせた。

「うっ。ぜ、ぜ……」
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