俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 彼はうなずき、続けた。

「ごく普通に結婚し、夫婦にはよくあるすれ違いを経て、離婚に至る。そういう筋書きだ」
「それと、離婚後は互いの悪評を広めないこと。ですよね?」

 日菜子も補足する。

「日菜子が嫌でなければそのままうちの会社で働き続けてもいいし、離婚前に自然な形で関連会社などに移籍できるよう取りはからうこともできる。そのくらいは茶番に付き合わせる礼としてさせてくれ」
「私は別に気になりませんが、離婚した夫婦が同じ職場にいたらみなさんは気を使いますよね」
「まぁ、その辺りはおいおい考えるか」

 善がスッと手を差し出す。契約結婚スタートのあいさつなのだろう。日菜子はその手を取りながら言った。

「至らない点の多い妻役だと思いますが、よろしくお願いします」
「いや、真面目すぎだから」
「……こういう性格なんです。人を楽しませるのは苦手で」

(私と一緒に暮らしてもつまらないだろうな。善さんは一年も我慢できるの?)

 この先がやっぱり不安になってしまう。そんな日菜子の手を善の大きな手が包み込む。

「俺はお前といるの楽しいよ。かわいいし、見てて飽きない」

 日菜子は口をパクパクさせて、善を見返す。

(私は……楽しくは……ない。善さんの隣にいると心が乱されて、自分が自分でなくなるみたいだ)

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