合意的不倫関係のススメ
蒼が私以外の誰かを抱くということは、とても吐き気がする行為だ。想像もしたくないし、二度と繰り返さないで欲しいとも思う。

けれどそれ以上に恐れていることは、彼が私の目の前から消え去ってしまうということだった。

(こんなに好きなのに…)

きっと、蒼の《《あれ》》は一種の病気のようなものだ。一度目の時に泣いて私に縋りついたのを見れば、彼が心底愛しているのは私である筈なのに。

どうしても、自分が捨てられない自信が持てなかった。

彼が衝動を抑えられないのであれば、私が耐えるしかない。耐えてさえいれば、きっと私はまだ彼の妻で居られる。けれどもしも…

がりがりと爪を噛み、捨てられない道を必死に模索した。あれは、私が嫌いだからやったのではない。彼の生い立ちが原因なのだから、普通の浮気とは違う。

…そう、あれは蒼にとっては《《仕方のないこと》》なのだ。

ばらばらに張り裂けそうな心を歪に修復して、自身を無理やり納得させた。けれど、以前のように突然あんな現場に遭遇したり証拠を見つけたり、というのはもうご免だ。

前の女のように相手もただの遊びであればまだマシだが、万が一本気になられても困る。蒼が情を移さないとも限らない。

(どうすれば、この問題を一気に解決できるだろう)

然程賢くもない頭を必死に巡らせた結果、私はある答えに辿り着いた。

ーー彼の不倫を、私が裏で手引きしてしまえばいいのではないか

と。

この世の中、金で動く人間は幾らでもいる。蒼が母親への恨みをぶつけられるような、派手で軽そうな女。金銭契約を結び、決して口外しないと念書も書かせる。

彼にはさも偶然に出会ったように見せかけて、さっさと抱いて鬱憤を晴らしてもらおう。そうすればきっとまた、ちゃんと私のことを見てくれる筈だ。

蒼の支配欲を満たすと同時に、私を裏切ったという罪悪感を植えつける。何も知らなかった以前とは違う。蒼が自ら浮気に走る前に、私が目の前にぶら下げてやるのだ。

(これならきっと、私の心は壊れない)

失いたくない一心だった。こんなことは馬鹿げていると、この時は気が付くことができなかった。
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