合意的不倫関係のススメ
部屋に入るとすぐに、私の方からキスをねだった。

「茜、待っ」
「嫌、待たない」
「ん…っ」

蒼が唇を開いた瞬間に舌を滑り込ませ、激しく絡ませる。飲み込み損ねた唾液が、彼の唇の端から一筋垂れたのを、ぺろりと舐めとる。

「…茜」
「今すぐ抱いてくれる?」
「なんでそんな…」

私の両肩に手を置き諌めようとしてくる彼を見て、私は悲痛に顔を歪めた。

「もう、私じゃダメなの?」
「…っ」

唇を噛み締め、蒼は私を抱き締める。胸の鼓動がぴったりと重なって、まるで傷みを分け合うかのようだった。

「そんなわけないだろ!?俺には茜しかいない!愛してるのは君だけだ…っ」

(愛してない(ヒト)でも、抱けるくせに)

信じたいのに、そんなことばかりが頭を過ぎる。ぽろぽろと溢れて止まらない涙を、蒼の指が拭う。

「俺は茜に相応しくないって、分かってても手放してあげられない」
「…蒼」
「ごめんな、茜」

彼の端正な顔が近付いてくる。その瞳が涙で濡れていたのかどうか、真意を確かめる前にキスで視界を塞がれた。

「…好きだ、好きなんだ……っ」
「ん、そ…う……っ」
「愛してる…」

まるで噛みつくような口付けだった。玄関横の壁に追いやられ、蒼の唇が首筋を這う。

「茜…茜……っ」
「や、蒼やめて…っ」
「なんで?抱いて欲しいって言ったよね」

決して乱暴な訳ではないのに、有無を言わさぬ雰囲気。いつもの蒼とは違う手つきに、ぎゅっと目を瞑り顔を逸らした。

「ねぇ茜。ここもう反応してる」
「や…そんなの、言わな…で…っ」
「可愛い、可愛い…もっと気持ちよくなって…」

私のシャツのボタンを強引に外し、そこから手を差し込み体を愛撫する。全てを知り尽くしている彼の手は、私を簡単に快楽に導いていった。

「あ…あ、蒼……っ」
「……っ」

ぼうっとする頭の端で、ベルトを外す音がする。私が我に還るよりも先に、彼の熱が後ろから中に埋め込まれていく。

「あ、や、だめだよ蒼…っ」

彼が着けたところを私は見ていない。初めて直接感じる彼自身に、心とは裏腹に子宮が震えた。

「はぁ…っ、凄い…締めつけてくる…っ」
「蒼、そう、おねが…っ」
「俺のこと、全部受け止め、て…っ」

何度も何度も腰を打ちつけられ、いつのまにか私の唇からは抵抗の言葉が消えた。こんな場所でこんなことはダメだと理性が訴えるが、甘い喘ぎ声に掻き消されていく。

「あ、あ、ん、あっ、んん…っ」
「茜、好き、好きだ…っ」
「やぁ、ん、あぁ…っ!」

私達は夢中で舌を絡ませ合いながら、お互いに身体を振るわせた。私の中でとくとくと脈打つ蒼をとても愛しいと感じるのは、本当なのに。

目尻からぽろりと、たった一粒涙が溢れた。
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