魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「神凪さんっ……!!」


声を絞って呼びかけると、神凪さんがピタリと足を止めた。


『え?』


電波越しの声と同時に、ゆっくりとこちらを振り返る。
私はスマホを耳から離し、全速力で走り出した。
彼の前に辿り着いて、身体を折って荒く息をする。


「はあっ、は……」

「……お前、帰ったんじゃなかったの?」


呆気に取られたような声が降ってくる。
私はゆっくり背を起こし、


「夜勤の後は、食堂で朝ご飯食べてから帰るんです」


呼吸を整えながら説明した。
神凪さんは、上着のポケットにスマホを突っ込むと。


「早く言えよ……」

「い、言おうとしたら、神凪さんが勝手に決めつけてペラペラ喋り出してっ……」

「……やべ。嬉しい」


口元に手を遣って、ボソッと呟いた。


「あー……くそっ。そういうことか……」

「そういうこと?」


神凪さんは私の問いには答えず、前髪を乱暴に掻き上げた。
その仕草で、左手首の腕時計に目が留まったようだ。
大きく肩を動かして、はーっと深い息を吐く。


「……悪い。俺、行かないと」

「は?」


肩透かしにあった気分で声を裏返らせる私に、ひょいと肩を竦める。
< 144 / 222 >

この作品をシェア

pagetop