魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「っ」


バウンド事故という言葉が、とっさに脳裏をよぎった。
反射的に顔を強張らせた私に、


「大丈夫。主翼よく見ろ」


佐伯さんが機体から目を離すことなく、早口で指示する。


「スポイラー、ちゃんと作動してる」

「スポイラー……あ……」


私は彼の言葉を反芻して、我に返った。
導かれるままに、すらっと伸びた左右の主翼を注視する。


翼の揚力を意図的に抑える装置だ。
左右の翼の上にあり、着陸時にシステムが作動して、自動で立ち上がる。
それにより、機体は空気抵抗を得て制動できる。


確かに、減速が早い。
私と佐伯さんが見守る中、今まで着陸した他の便より早くノーズギアを下ろした。
全車輪がしっかりと接地して、危なげなく滑走路を走り抜けていく。


「よしっ。ナイスランディング!」


佐伯さんが頬を紅潮させて、パンパンパンと手を打った。


「椎名、急いでスポット行くぞ。すぐ見てやらないと」


興奮気味にバンと背中を叩かれ、私は思わず前につんのめった。
だけど。


「はいっ!」


すぐに体勢を立て直し、ターミナルビルに向かって駆け出す彼を追った。
幾つもの水溜りを踏み、雨水がバシャッと音を立てて顔まで跳ね上がっても気にせず、ただ走り続けた。
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