魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
新千歳へのフライトを前に、JA831Kが四日ぶりにスポットインした。
誘導路を走行後、チョーク留めされた機体を、私たちライン整備チームが最後のチェックで取り囲む。
気付くと、ボーディングブリッジが接続されていた。


愁生さんはもう搭乗したかな……。
私はコックピットの窓を見上げてから、ヘルメットに取りつけられたインカムを口元に運んだ。


「コックピット、聞こえますか? グラウンドの椎名です」


ちょっぴり緊張しながら呼びかけると、サザッとノイズが走った。


『はい。コックピット、神凪です』


愁生さんが応答して、窓辺にひょいと顔を出した。
私を探しているのか、下を覗き込むようにしている。


私はドキッと跳ねる胸に手を当て、ゆっくり二歩後退した。
確かに目が合った……と確信した瞬間。


『整備、完璧?』


私だとわかっているから、彼の口調が砕ける。
揶揄するみたいに目を細めるのを見て、私はぐんと胸を反らした。


「もちろん。コックピットの計器類、そちらから見て異常ありませんか?」

『他人行儀な聞き方……。問題ないよ』


愁生さんは口元に手を遣って、わざとらしく笑いを噛み殺す仕草をした。


「そうですか。よかった」
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