魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「佐伯に喋らないでほしいんじゃなかったっけ?」

「え?」

「俺は、俺の女になれって条件出した。のめないなら、交渉決裂ってことで」


革靴の踵をコツッと鳴らして、私にくるりと背を向けた。


「ちょ、ちょっと待って」


私は、条件反射で彼の腕を掴んだ。
神凪さんが、自分の腕を見下ろす。


「ズルい。そういう条件は卑怯です」

「そう? 悪いけど、俺には他に代わる条件もないから」


ひょいと肩を上げてうそぶく彼に、私は口をパクパクさせた。
大体、ただ黙っていてほしいだけのことに、条件なんてわりに合わない。
彼の制服の袖を握ったまま、絶句していると。


「あ。噂をすれば……」


頭上から、ボソッと独り言ちる声が降ってきた。
神凪さんがなにに気を取られたのか確認しようと、つられて視線を流し――。


「神凪? なにやってんだ、こんなとこで……って、あれ。椎名?」

「さっ、佐伯さん!?」


頬の油汚れを擦りながら、素朴な笑顔を浮かべて歩いてくる佐伯さんを見つけて、大きく目を剥いた。
彼の視線が私の手に注がれるのに気付き、神凪さんの腕から勢いよく離す。


「あ、あの。どうして佐伯さんがここに?」
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