魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
そのため、機体の揺れを防げず、ベルトサインを出さなければならなくなった。


「……申し訳ありませんでした」

「いや、君らしくないと思っただけで、叱責するほどのことじゃないよ」


音羽さんは俺の肩をポンと叩くと、操縦席を立った。
コックピットのドアを開け、その前に佇む。
そこから乗客の降機を見送る、彼のルーティンだ。


音羽さんは、久遠さんの同期だ。
日本エア航空史上最速で機長昇進を果たした久遠さんは、その厳しさから鬼機長なんて呼ばれて注目されがちだが、音羽さんも史上二番目の速さで昇進している。
大人の男の落ち着きに満ちていて、穏やかな人柄。
だからこそ、久遠さんに注意されるのとは違った意味で胸に刺さる。
俺は肩を動かして息を吐いた。


『らしくない』。
これも、椎名のせいだ。


何故――俺は佐伯が椎名を心配するのを、彼女が嬉しそうに顔を赤らめるのを、面白くないと感じた?
瞳を抱き寄せたところを見られ、弁解しようとした?
それを『関係ない』と言い捨てられて、胸が痛いとか……。


「ほんと、なんなんだ、俺……」


ポツリと独り言ちる口元を手で覆って、窓の外に視線を投げた。
俺はこのフライトの前、新千歳から羽田に到着した時、こうしてコックピットの窓から別便の整備に当たる椎名を見つけた。
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