魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
俺に興味もない女――。
最初から逃げられたし、もう関わらなきゃいいと思いながらも、『遊び』と決めつけられたのが腹立たしかった。
俺は彼女の思い込みを覆そうとムキになって、ハンガーに足を運ぶようになった。


さすがに、下に降りて仕事の邪魔をするわけにはいかない。
いつも三階のデッキから眺めるだけだったから、間近で整備する彼女の姿を見たのは今日が初めてだった。
男だらけの整備士の中で、普通の女としてもやや小柄で華奢な体格の椎名が、自分の背丈とそれほど大差のない飛行機のタイヤを点検していた。


航空整備士は、女にとって決して楽な仕事じゃないはずだ。
だからこそ、本当に飛行機が好きじゃなきゃできない。
最初は、『おー、やってるやってる』と軽い気持ちで動きを追っていたが、タイヤの溝に真剣に目を凝らす彼女の姿に心を打たれた。


俺たちパイロットは一度空に飛び立ったら、乗員乗客の命を守るという使命がある。
そして、その俺たちが命を預けるのは飛行機という巨大な鉄の塊。
言ってみれば、俺たちは航空整備士に命を委ねているようなものだ。


何故だか急に、頬の汚れを気にせず真摯な目で整備に勤しむ椎名に身を包まれ、守られているような錯覚に陥った。
彼女の温もりなど知らないのに、その温かさが心地いい――。
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