病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 ユードの顔が迫り、唇が塞がれる。熱い舌が捻じ込まれ、咥内を蹂躙される。ユードの手が首元のボタンに伸びて、それが乱暴に外される。襟首を強引にはだけられ、露出した首筋にユードが顔を埋め、舌が肌を舐め上げる。彼の硬い身体がわたしの上に覆い被さり、重みで身動きを封じられる。重い。怖い。いや――

 不意に、脳裏にあの時の記憶が甦る。
 薄暗くかび臭い地下牢で、何人もの男たちの手に押さえつけられ、身体を(まさぐ)られたときの記憶。冷たく硬い石の床に押し付けられた時の、背中から伝わる痛みと冷たさと――
 
 ずっと忘れ去り、心の奥底に仕舞い込んできた絶望と恐怖が呼び覚まされ、わたしは悲鳴を上げていた。

「い……いやあああああ!」
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