病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 ギストヴァルトの土地は痩せていて、また農地も少ない。ソイソースは畑の畝に植えた大豆を発酵させて作った、ギストヴァルト特有の調味料だ。ギストヴァルトや隣接するブロムベルクでは普通に使うけれど、帝都ではあまりなじみがない。独特の匂いを嫌う人もいる。

「うん、美味い! この香辛料が最高!」
 
 ちゃっかりとなりの屋台でヨルクが麦酒(エール)を仕入れてきて、男性陣三人は早速乾杯している。わたしとアニーにはリンゴ酒(シードル)。つくねを食べ終わると、お待ちかねの「とりどり欲張り串」が来た。わたしは塩味の串を手に取り、レモンを絞る。手に取ってみるとすごく大きな串で、ズシリと重い。最初の二つが大猪。豚肉に野性味を足したような感じで、歯ごたえがあって美味しい。
 
「一つ、交換しませんか」

 タレ味の串を選んだユードが横から言うので、わたしが串を差し出すと、ユードが歯で咬んで、猪肉を串から抜き取る。そんな動作も男らしくてかっこいい。なんとなく見惚れているわたしに、ユードが笑った。

「塩味も美味いですね。……タレ味もどうぞ」
「串から食べるのは、さすがに……」

 わたしが躊躇すると、ユードはもう一つの串を器用に使って、猪肉を串の先端まで動かしてくれた。

「はい、あーん」
  
 勇気を出して、ユードの串から猪肉を直接食べる。その様子を、ユードが蕩けそうな笑顔でじっと見つめているので、わたしは恥ずかしさに耐えられなくて慌てて俯いた。

「……チッ。イチャイチャしやがって……」
「いいじゃないの……」
 
 ヨルクが二杯目の麦酒をぐびりと呷って悪態をつき、アニーが窘める。案内役のロイも目のやり場に困るという風に、赤い顔で目を泳がせ、肩を竦めてみせた。
 二人の態度に、わたしはなおさら恥ずかしくなって、せっかくの串焼きの味もわからなくなってしまった。
 
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