病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 わたしはぱちぱちと瞬きした。
   
「ディートリンデ様を?」
「聖杯は侯爵が持っているのは間違いないが、どこに隠しているかがわからない。娘のディートリンデから篭絡するのが一番、簡単で確実だった。前々回は、それであと少しのところまで辿りついていた。だから、前回も同じ手段を用いた」

 ユードの表情はほとんど変わることなく、語り口は淡々としている。ディートリンデ様を篭絡した、というのは、その、要するに身体で陥落させた、ということなのだろうが、わたしは何も言えずに黙っていた。

「……貴女のこと実はずっと前から知っていた。ずっと好きだったけれど、遠くから見るだけで、敢えて近づかないようにしていた。でも、貴女は地震で死んでしまう。それが耐えられず、俺は前回、貴女を救った」
 
 前回の記憶を思い出す。……あの時、焔に巻かれたわたしの目の前にユードが現れて……

「……地震は、聖杯のせいなの?」
「そう。二十年近く人里にあると、聖杯には人の邪気が溜まってしまう。あれは、破滅が近いことを俺に知らせる合図だ。……あの地震で貴女を救ったことで、ブロムベルク辺境伯とつながりができた」

 何度も繰り返しているが、ところどころ、違うことが起きる。

「オーベルシュトルフ侯爵が俺に持ちかけた。――うまく貴女の婿に収まり、ブロムベルクを手に入れろと」
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