病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 いくつもの不運が積み重なっていた。父が死んで結界は一時的に消滅していた。そして跡継ぎの俺はまだ頑是ない子供で、儀式の直後で秘密の祭壇へ続く階段も開いていた。略奪目当ての暴徒が、血塗れの剣を手にして雪崩れ込み、祭壇の間にいた重臣や騎士を殺し、俺の目の前で母を犯した。聖杯を奪い、城に火を放ち、そうしてたぶん俺も殺して――よくわからないが、聖杯が奪われている時、聖杯の騎士が死ぬと聖杯も壊れる仕組みになっているらしい。
  
 次の瞬間、再び継承儀式の直後に戻っていた。
 あの殺戮の記憶を持つのは俺と、精霊の乙女の資格を持つ、母だけ。
 
「母上、逃げて――」
 
 だが、地上から迫る怒号に、すべてが間に合わないと悟る。時戻りの瞬間から聖杯が奪われるまでの時間が短すぎて、対応のしようがない。結局、二回目の時戻りでも俺は殺されて、三回目はその場は逃れたがすぐに捕らえられ、傭兵たちになぶり殺しにされた。
 
 こんなことを繰り返したら普通の人間ならば気が狂うだろうが、どうやら俺は普通の人間ではないらしい。聖杯を守り、取り戻すために作られた人間だからなのか、狂うこともなく幾度めかで虎口を脱することができた。
 
 だが、その後も苦労は続く。何しろ子供だから弱い。捕まって、滅んだ国の王族だと知られれば奴隷として売り飛ばされる。少年好きの変態に売られたこともあるし、愛玩奴隷として鎖につながれて生涯を終えたこともある。悲惨な人生が終わっても、そのたびごとに俺の身体はまた、九歳のあの日に戻る。
 
 俺が聖杯を取り戻すまで、この地獄は終わらないのだ――
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