病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 聖杯――精霊王から賜った聖器。虹色の光を放つ銀化ガラスの小さな器。
 ギストヴァルトの森の奥、湖の畔に聳える小さな城の秘密の地下に隠された、精霊王との契約の証。俺は代々、聖杯を守る小国の王子だった。

 俺が九歳の時。西側の強大な帝国が服属を求めてきたが、父は突っぱねた。我が国は精霊王以外には服属はできない。
 ギストヴァルトの理論では当たり前のことだが、森の外では通用しない。交渉は決裂し、小競り合いが起き、父は死んだ。

 たとえ国が滅びても、聖杯は守らねばならない。
 聖杯が森から奪われれば、世界は破滅する。――これまでも何度かあって、そのたびに先祖が聖杯を取り戻してきた。 
 
 人は愚かだ。聖杯を得れば世界が手に入るなんて間違った噂を信じ、聖杯を持ち去ろうとする。
 しかし、望まぬ場所に置かれた聖杯は怒り、二十年を限界として精霊王の怒りをまき散らして自壊し、再びギストヴァルトに戻る。
 世界を破滅させるエネルギーを利用し、時を戻してしまう。
  
 聖杯の騎士が取り戻して城の地下に安置するまで、破滅と時戻りをひたすら繰り返すのだ。
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