病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
「ユードはあの女が好きなの?」

 あまりに目で追い過ぎたせいか、ディートリンデにセシリアへの想いを知られた。
 
「そんなわけありません」
「あの女は庶子よ。母親は辺境出の……娼婦だったというもっぱらの噂よ」
「そうでしたか。別にどうでもいいです」

 彼女の生まれなど俺は気にしない。ブロムベルク辺境領はギストヴァルトに境を接し、ギストヴァルトにとっては唯一開かれた世界への玄関口だった。帝都では珍しい彼女の白金の髪も薄水色の瞳も、ギストヴァルトではよく見るもの。

 ――だから、懐かしいのか。
 
「でもあなたはわたくしの騎士なのよ。よそ見は許さなくてよ?」

 ディートリンデがてらてら光る真っ赤な唇で不満そうに言うのに、「俺はディートリンデ様一筋ですよ」なんて、思ってもいない浮ついた言葉を囁き、ご機嫌を取らねばならない。

「ねえ……今夜来て?」
「お召しとあらば喜んで」
「ふふふ……わたくしのこと、愛してる?」
「もちろんです」

 俺の手練手管にすっかり篭絡され、裸で俺に跨り、はしたなく腰を振るディートリンデにうんざりしながらも、関係を切るわけにもいかない。

 ギストヴァルトが滅んで十八年。
 世界が終わる二年前のその年、聖杯はいつも地震を起こす。まるで自身の存在を誇示し、破滅の予兆を示すかのような、なんとも禍々しい揺れを。
 その地震が、セシリアの命を奪った。――例の貧民街の孤児院で、崩れた家から出火した火事にまきこまれたのだ。
 
 聖杯が壊れ時が戻るまでの二年、俺はセシリアのいない砂を噛むような日々を過ごし、密かに決意する。――次は、絶対に彼女を死なせはしない、と。
 
 だから、次の時――それが前回の人生だが――地震を予知していた俺は、空間転移魔法を駆使し、火事から逃げ遅れたセシリアを救い出した。

 そのことで、これまでとは異なる展開が起こった。 
 
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